朝日が差し込む窓辺で、私は今日も丁寧にメイクブラシを走らせていた。高校2年生になって、少しずつ化粧に慣れてきた私の朝の日課。母から譲り受けた古い化粧台の鏡に映る自分の顔を見つめながら、ナチュラルメイクの完成を目指す。
「メイクって、本当に不思議な力があるよね」と、いつも思う。それは単に見た目を変えるだけじゃない。心まで変えてくれる魔法みたいなもの。特に私にとって、化粧は自信をくれる大切な味方だった。
中学生の頃の私は、人一倍コンプレックスが強かった。シミや毛穴が気になって、クラスメイトと話すときも常に下を向いていた。でも、高校に入学する直前、母が私に最初のメイクアイテムをプレゼントしてくれた。ベージュピンクのリップと、明るい色味のチークだった。
「千夏、メイクは自分を表現する道具よ。でも、一番大切なのは、素顔の自分を愛することね」
母の言葉は、今でも心に残っている。初めは不器用で、チークの入れ方も分からず、友達に笑われたこともあった。でも、少しずつ上手くなっていく過程が楽しくて、いつの間にか化粧が大好きになっていた。
今では、ナチュラルメイクが私の得意技。薄づきのファンデーションで肌を整え、ほんのりピンクのチークで血色感を出す。アイシャドウは明るいベージュをベースに、目尻に少しだけブラウンを入れる。これだけで、顔立ちが柔らかくなる。
特にこだわっているのは、眉毛。太すぎず細すぎず、自然な形に整えることで、表情全体が明るく見える。母がいつも言っていた「眉毛は顔の印象を決める」という言葉を思い出しながら、毎朝丁寧にブラシを動かす。
学校では、友達とコスメの話で盛り上がることも増えた。休み時間になると、誰かが新しく買ったリップを見せてくれたり、話題の韓国コスメについて情報交換したり。化粧品が、友達との絆を深めるきっかけにもなっている。
「千夏ちゃんのメイク、いつも自然で可愛いよね」と言われるようになった時は、本当に嬉しかった。でも、それ以上に嬉しかったのは、鏡を見たときに浮かぶ自分の笑顔だ。以前のように下を向くことも少なくなり、人と話すときも自然と目を合わせられるようになった。
ある日、帰り道で偶然出会った中学時代の友達に「明るくなったね」と言われた。その言葉を聞いて、私は改めて気づいた。メイクは、単なる見た目の変化だけじゃない。それは、私の心も少しずつ変えていってくれたんだ。
今では、すっぴんの自分も好きになれた。それは、メイクを通じて自分と向き合う時間を持てたからかもしれない。毎朝の化粧時間は、自分を大切にする特別な時間。鏡の中の自分に「おはよう」と話しかけながら、その日の気分に合わせてメイクを楽しんでいる。
最近は、YouTubeでメイク動画を見るのが趣味になった。プロのメイクアップアーティストの技を真似してみたり、新しいテクニックに挑戦したり。失敗することもあるけれど、それも含めて楽しい。
母が言っていた「素顔の自分を愛すること」の意味も、少しずつ分かってきた。メイクは、欠点を隠すためだけのものじゃない。自分の良いところを引き立て、その日の気分を表現する手段なんだ。
放課後、友達と一緒にドラッグストアに寄り道するのも楽しみの一つ。新作コスメを試したり、お気に入りのアイテムをシェアしたり。私たちにとって、それは大切な思い出作りの時間になっている。
化粧ポーチの中身は、季節とともに少しずつ変わっていく。春はピンク系のアイテムが増え、夏は日焼け止めが必需品に。秋になると温かみのあるブラウン系、冬は乾燥対策のスキンケアアイテムが増える。その変化を楽しむのも、メイクの魅力の一つだ。
今日も学校に向かう前に、最後にリップを塗る。ほんのり色づく唇を見ながら、心の中でつぶやく。「今日も素敵な一日になりますように」
メイクは私に教えてくれた。自分を大切にすることの意味を、表現することの楽しさを、そして何より、自分らしく生きることの素晴らしさを。これからも、この小さな化粧台で過ごす朝の時間を大切にしていきたい。それは私にとって、新しい一日への準備であり、自分自身へのご褒美の時間なのだから。
鏡に映る私は、確実に以前より明るい表情をしている。それは、メイクという魔法のおかげなのかもしれない。でも、本当の魔法は、その過程で見つけた自分への自信と、周りの人との温かいつながりなのかもしれない。今日も私は、そんな小さな魔法に包まれながら、新しい一日を始めていく。
コメント