朝の光が差し込む部屋で、制服に着替えた彼女は鏡の前に座った。ドレッサーの上には、お小遣いを貯めて少しずつ集めたコスメたちが並んでいる。派手なメイクをするわけではない。ただ、自分らしくいるために、彼女は毎朝この時間を大切にしている。
女子高生にとって、メイクは単なる美容行為ではない。それは自分と向き合う時間であり、今日一日を前向きに過ごすための儀式でもある。彼女が選んだのはナチュラルメイク。素肌を活かしながら、ほんの少しだけ自信をプラスする。それが彼女なりの「メイクは力」という哲学だった。
まず手に取るのは、化粧下地。透明感のあるトーンアップタイプを選び、顔全体に薄く伸ばしていく。肌の凹凸を整えながら、自然な明るさを引き出す。ファンデーションは使わない日もある。代わりに、気になる部分だけコンシーラーで軽くカバーする。厚塗りにならないよう、指先でポンポンと優しく馴染ませる。この「引き算の美学」こそが、ナチュラルメイクの真髄だと彼女は知っている。
次に眉を整える。太すぎず、細すぎず、自分の骨格に合った自然な形を意識する。アイブロウペンシルで少しずつ描き足し、パウダーでふんわりとぼかす。眉ひとつで表情は大きく変わる。きりっとした眉は意志の強さを、柔らかな眉は優しさを表現する。今日の彼女は、少しだけ上向きのカーブを意識した。明るい表情で一日を始めたいから。
アイメイクは控えめに。ベージュやブラウン系のアイシャドウを薄く重ね、目元に自然な陰影をつける。ラメやパールは最小限に抑え、上品な艶感だけを残す。マスカラは根元からしっかりと、でもダマにならないように慎重に。まつ毛が少し上向きになるだけで、目元の印象はぐっと明るくなる。アイラインは引かない日もある。引くときも、まつ毛の隙間を埋める程度に留める。ナチュラルメイクの鉄則は「盛らないこと」だ。
チークは笑ったときに一番高くなる部分に、ふんわりと乗せる。色はコーラルピンク。血色感を与えながらも、子どもっぽくならない絶妙な色味。鏡の中の自分が、ほんの少し健康的に見える。それだけで気分が上がる。
最後にリップ。彼女が選ぶのは、いつも自然な色合いのもの。今日はほんのり色づくティントリップ。唇本来の色を活かしながら、潤いと血色をプラスする。グロスは使わない。ベタつきが苦手だし、何より自然な仕上がりを大切にしたいから。
鏡の中の自分を見つめる。すっぴんの自分と、メイクをした自分。劇的な変化はない。でも確かに違う。目元が明るくなり、表情に自信が宿っている。これが彼女の求めていたもの。派手に変身するのではなく、自分らしさを引き出すこと。
学校に着くと、友達が「今日もかわいいね」と声をかけてくれた。「ありがとう」と笑顔で返す。その笑顔は、メイクをする前よりも自然で明るい表情だった。コスメは魔法ではない。でも、自分を少しだけ好きになる手助けをしてくれる。
教室の窓から差し込む光の中で、彼女は今日も前を向く。数学の授業も、体育の時間も、放課後の部活も。メイクをした自分で、全力で向き合える。それは見た目の変化だけではなく、心の変化でもあった。
女子高生にとって、ナチュラルメイクは自己表現の一つ。大人っぽく見せたいわけでも、誰かに認められたいわけでもない。ただ、自分が心地よくいられるため。明るい表情で毎日を過ごすため。そのための小さな、でも大切な習慣。
コスメは彼女にとって、自信という名の武器だった。派手な武器ではなく、静かに自分を支えてくれる盾のようなもの。すっぴんの自分も好き。でもメイクをした自分はもっと好き。それは虚飾ではなく、自分を大切にする行為だから。
夕方、部活を終えて帰宅する頃には、メイクは少し崩れている。でもそれでいい。一日を頑張った証だから。家に帰ってメイクを落とすとき、彼女は鏡の中の自分に「今日もお疲れさま」と声をかける。そしてまた明日、新しい一日のために、コスメたちと向き合う。メイクは力。それは彼女が毎日、鏡の前で確かめている真実だった。
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組織名：株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名：上辻 敏之
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