朝の光が差し込む部屋で、彼女は鏡の前に座った。制服のリボンを整え、髪を軽く梳かす。そして手を伸ばしたのは、小さなポーチに詰まったコスメたち。女子高生の朝は、この静かな時間から始まる。
メイクは力だ。それは彼女が最近気づいた真実だった。ほんの数ヶ月前まで、化粧なんて大人の女性がするものだと思っていた。けれど友達が「ちょっとだけリップ塗ってみたら」と勧めてくれた日から、何かが変わり始めた。鏡に映る自分が、ほんの少しだけ違って見えた。それは劇的な変化ではなく、まるで朝日に照らされた花が開くような、自然で優しい変化だった。
彼女が選んだのはナチュラルメイクだった。濃い化粧は似合わないと思った。というより、自分らしくないと感じた。学校という場所で、自分を偽りたくはなかった。ただ、今の自分をほんの少しだけ、明るく見せたかった。そんな願いを叶えてくれたのが、透明感のある下地と、肌になじむベージュのアイシャドウ、そして淡いピンクのリップだった。
最初は不器用だった。アイブロウペンシルで眉を描けば左右が非対称になり、チークを塗れば頬が真っ赤になった。何度も失敗して、何度もティッシュで拭き取った。でも不思議と諦めようとは思わなかった。それはまるで、新しい自分を探す冒険のようで、失敗すらも楽しかったから。
ある日、クラスメイトが言った。「最近、なんか明るくなったね」と。彼女は驚いた。メイクをしていることに気づかれたのかと思ったけれど、そうではなかった。友達が見ていたのは、彼女の表情だった。明るい表情。それは確かに、鏡を見るたびに自分でも感じていたことだった。
コスメは単なる道具ではなかった。それは自分と向き合う時間をくれるものだった。毎朝鏡の前で過ごす十五分間は、今日一日をどんな気持ちで過ごすか、自分に問いかける時間になった。少し疲れている日は、明るめのリップで元気を足す。自信がない日は、丁寧にアイメイクをして、自分を励ます。コスメは彼女にとって、心を整える儀式になっていた。
母親は最初、心配そうな顔をした。「高校生なんだから、あまり濃い化粧はしないでね」と。でも彼女のナチュラルメイクを見て、母は安心したように微笑んだ。「自分らしさを大切にしているのね」と言ってくれた。その言葉が嬉しかった。そう、彼女がメイクを通して見つけたのは、まさに自分らしさだったから。
女子高生という時期は、自分が何者なのか分からなくなる時期でもある。周りと比べて落ち込んだり、自分の容姿に自信が持てなかったり。そんな揺れ動く心を、コスメは優しく支えてくれた。完璧になる必要はない。ただ、今日の自分を少しだけ好きになれればいい。そんな小さな積み重ねが、彼女の毎日を変えていった。
友達とコスメの話をするのも楽しかった。お互いのポーチを見せ合って、「そのアイシャドウ可愛い」「このリップ貸して」と盛り上がる。限られたお小遣いの中で、どのアイテムを買うか真剣に悩む。ドラッグストアのコスメコーナーで、何十分も立ち尽くす。そんな時間も、かけがえのない青春の一ページだった。
彼女は気づいた。メイクは誰かのためにするものではないということに。それは自分のため、自分の心を明るくするためのものだった。朝、鏡の前で「今日も頑張ろう」と思える。それだけで十分だった。ナチュラルメイクは、彼女に自然体でいることの大切さを教えてくれた。
季節が変わり、彼女のコスメポーチも少しずつ変化していった。春には桜色のチーク、夏には透明感のあるグロス、秋にはオレンジ系のリップ。それぞれの季節に合わせて、自分らしい色を見つけていく。その過程そのものが、成長だった。
今日も彼女は鏡の前に座る。コスメを手に取り、丁寧に顔に色を重ねていく。そして鏡に映る自分を見て、微笑む。明るい表情の自分がそこにいる。メイクは力だ。それは誰かを変える力ではなく、自分自身を好きになる力。女子高生の彼女が、小さなコスメたちから学んだ、大きな真実だった。
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組織名：株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名：上辻 敏之
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