朝の光が差し込む部屋で、私は鏡の前に座る。制服のリボンを整え、髪を軽く梳かしてから、小さなポーチを開ける。中には、私だけの宝物が詰まっている。ドラッグストアで見つけたプチプラのファンデーション、友達に教えてもらったアイブロウペンシル、そして母からもらった淡いピンクのリップクリーム。これらのコスメたちが、私の一日を支えてくれる。
女子高生として過ごす毎日は、思っている以上に複雑だ。授業中の発表、友達との会話、憧れの先輩とすれ違う廊下。すべての瞬間に、少しだけ自信が欲しい。派手なメイクは校則で禁止されているし、そもそも私の性格には合わない。だからこそ、ナチュラルメイクという選択肢が、私にとって最高の味方になった。
最初にコスメに興味を持ったのは、中学三年生の冬だった。クラスメイトの美咲が、ある日突然明るい表情で登校してきた日のことを今でも覚えている。彼女は何も変わっていないようで、でも確実に何かが違った。休み時間に思い切って聞いてみると、彼女は恥ずかしそうに「ちょっとだけメイクしてみたの」と教えてくれた。その瞬間、私の中で何かが動いた。メイクは、自分を偽るものではなく、本来の自分をもっと好きになるための道具なのだと気づいた。
高校に入学してから、私は少しずつコスメについて学び始めた。YouTubeで女子高生向けのメイク動画を見たり、雑誌の特集を読んだり、休日には友達とドラッグストアを巡ったりした。最初は何を選べばいいのか分からず、パッケージの可愛さだけで選んでしまったこともある。でも失敗を重ねるうちに、自分の肌に合うもの、自分の雰囲気に合うものが少しずつ分かってきた。
私のナチュラルメイクは、とてもシンプルだ。まず、化粧水でしっかり肌を整える。これは母から教わった基本中の基本。次に、薄くファンデーションを伸ばす。完璧にカバーしようとせず、素肌感を残すことが大切だ。そして眉毛を自然な形に整え、透明なマスカラで睫毛を軽く上げる。最後に、血色感を出すために頬と唇に同じ色のティントを薄く乗せる。全部で十分もかからない。でもこの十分が、私に大きな変化をもたらしてくれる。
メイクをした日としない日では、自分の気持ちが全然違う。別に顔が劇的に変わるわけではない。でも鏡を見たときの自分への満足感、教室に入るときの堂々とした気持ち、友達と話すときの自然な笑顔。これらすべてが、コスメという小さな魔法によって生まれている。明るい表情は、外から作られるものではなく、内側から湧き出てくるものだと実感する。そしてメイクは、その内側の明るさを引き出すきっかけをくれる。
クラスには、メイクなんて必要ないという友達もいる。それも一つの考え方だし、素顔が素敵な子もたくさんいる。でも私にとってコスメは、自分と向き合う時間を作ってくれる大切な存在だ。朝の数分間、鏡の前で自分の顔を見つめながら、今日はどんな一日にしようかと考える。その静かな時間が、実は一日の中で最も贅沢な時間かもしれない。
最近、後輩から「先輩、いつも明るくて素敵ですね」と言われた。その言葉が嬉しくて、思わず頬が緩んだ。きっと彼女は、私がメイクをしているかどうかなんて気にしていない。でも私は知っている。この明るさの一部は、毎朝のメイク時間が育ててくれたものだと。コスメは単なる化粧品ではなく、自分を大切にする行為そのものなのだと。
女子高生という時期は、自分探しの真っ最中だ。将来のこと、勉強のこと、人間関係のこと、悩みは尽きない。そんな中で、コスメは小さいけれど確かな自信をくれる。ナチュラルメイクだからこそ、自分らしさを失わずに、ほんの少しだけ背中を押してもらえる。派手に変身するのではなく、今の自分をもっと好きになるための道具。それが私にとってのコスメの意味だ。
ポーチの中のコスメたちは、どれも高価なものではない。でもそれぞれに物語がある。初めて自分で選んだファンデーション、友達とお揃いで買ったリップ、テスト前に自分へのご褒美として買ったアイシャドウ。これらすべてが、私の高校生活の一部になっている。
明日も私は、朝の光の中で鏡の前に座るだろう。そして小さなポーチを開き、今日の自分を作り上げる。メイクは力だ。それは誰かを驚かせるためのものではなく、自分自身を励ますためのもの。女子高生の私が見つけた、小さくて大きな魔法。コスメという名の、毎日の勇気なのだ。
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組織名：株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名：上辻 敏之
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