朝の光が差し込む部屋で、彼女は鏡の前に座った。制服のブラウスに袖を通し、髪を整え、そして小さなポーチからコスメを取り出す。女子高生の朝は、いつもこの静かな時間から始まる。メイクは力。それは彼女が最近気づいた、小さくて大きな真実だった。
中学生の頃、彼女は化粧なんて必要ないと思っていた。むしろ、濃いメイクをしている人を見ると、どこか自分を偽っているように感じていた。素顔こそが本当の自分で、飾ることは嘘をつくことだと信じていた。けれど高校に入学し、新しい環境に身を置いたとき、彼女は自分の中に小さな不安を抱えていることに気づいた。クラスメイトと話すとき、なんとなく自信が持てない。鏡を見ても、どこか疲れているように見える自分がいる。そんなとき、友人が何気なく言った言葉が心に残った。「メイクって、自分を好きになるための魔法みたいなものだよ」と。
その言葉をきっかけに、彼女はナチュラルメイクに興味を持ち始めた。派手に変身するのではなく、自分らしさを引き出すためのメイク。それは彼女が求めていたものだった。最初は何から始めればいいのか分からず、ドラッグストアのコスメコーナーで途方に暮れたこともあった。色とりどりの商品が並ぶ棚を前に、彼女は圧倒されていた。けれど店員さんが優しく声をかけてくれて、肌に優しいベースメイクや、ほんのり血色を足すチーク、まつげを自然に際立たせるマスカラを教えてくれた。
家に帰って、彼女は初めて自分でメイクをしてみた。最初は不器用で、チークが濃くなりすぎたり、アイラインがガタガタになったりした。それでも鏡の中の自分を見つめながら、少しずつコツをつかんでいった。ナチュラルメイクの基本は、引き算の美学だと彼女は学んだ。足しすぎず、でも必要なところにはしっかりと色を置く。それだけで、顔の印象は驚くほど変わる。
ある朝、いつものようにメイクを終えて鏡を見たとき、彼女ははっとした。そこには明るい表情の自分がいた。目元がぱっちりとして、頬には健康的な血色がある。それは別人になったわけではなく、自分がもともと持っていた魅力が引き出されただけだった。けれどその違いは大きかった。学校へ向かう足取りが軽くなり、友達に話しかけるときの声も自然と明るくなった。コスメは彼女に自信をくれたのだ。
メイクをするようになってから、彼女は自分の顔をよく観察するようになった。どの角度から見ても美しいわけではないし、雑誌のモデルのような完璧な肌でもない。でもそれでいいのだと思えるようになった。自分の個性を知り、それを活かす方法を考える。それがナチュラルメイクの楽しさだった。目が一重なら、その切れ長の美しさを活かせばいい。頬にそばかすがあるなら、それも個性として受け入れればいい。コスメは欠点を隠すためのものではなく、自分を肯定するためのツールなのだと、彼女は理解した。
クラスメイトからも変化に気づかれるようになった。「最近、なんか雰囲気変わったね」「明るくなったよね」と声をかけられることが増えた。彼女は少し照れくさそうに笑いながら、「ちょっとメイク始めたんだ」と答える。すると友達も興味を持ち、放課後に一緒にコスメショップを巡るようになった。お互いに似合う色を選び合ったり、新作のリップを試したり、そんな時間が彼女たちの楽しみになった。
メイクを通じて、彼女は自分と向き合う時間を持つようになった。朝の数分間、鏡の前で自分の顔に触れ、今日はどんな自分でいたいかを考える。少し元気を出したい日は、明るめのリップを選ぶ。落ち着いた雰囲気で過ごしたい日は、ベージュ系でまとめる。その日の気分や予定に合わせてメイクを変えることで、彼女は自分をコントロールする力を手に入れた。
女子高生にとって、メイクは単なる美容行為ではない。それは自己表現であり、自己肯定であり、そして成長のプロセスでもある。ナチュラルメイクを選んだ彼女は、派手に目立つことではなく、自分らしくいることの大切さを学んだ。コスメという小さな道具が、彼女に大きな自信と明るい表情をもたらしてくれた。
今日も彼女は鏡の前に座り、丁寧にメイクをする。それは誰かのためではなく、自分のため。メイクは力。その力は、外見を変えるだけでなく、内面から輝く自分を引き出してくれる。彼女はそれを知っている。だから今日も、彼女は笑顔で一日を始めるのだ。
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組織名：株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名：上辻 敏之
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