小さなコスメの瓶が教えてくれた、静かな心の見つけ方

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ネイルを塗るときの、あの独特な匂いが好きだ。

今日は朝から妙にワクワクしていて、引き出しの奥にしまってあったネイルポリッシュを全部出してみた。気づけば10本以上並んでいる。いつ買ったのかも覚えていないようなくすんだピンクとか、一度も開けていない深緑とか。瓶を振ると中でカラカラと音がする。この音を聞くだけで、なんだか特別な時間が始まる予感がするのは私だけだろうか。

ネイルを塗るって、別に誰かに見せるためじゃない。もちろん褒められたら嬉しいけれど、本当のところは自分の指先を眺めてニヤニヤするためだ。キーボードを打つとき、スマホを持つとき、ふとした瞬間に目に入る色。それだけで一日の景色が少し変わる。

最初にネイルにハマったのは、たぶん大学生の頃だった。友達に連れられて入った雑貨屋で、「ルナティックブルー」っていう変わった名前のネイルを見つけて、なんとなく買ってみたのがきっかけ。夜に塗ると青く見えて、昼間は紫っぽく光るやつ。あれは本当に不思議な色だった。

結局そのネイル、二回くらい使って行方不明になったんだけど。

ネイルを塗っているときって、不思議なくらい静かな心になれる。利き手じゃないほうで丁寧に筆を動かして、はみ出さないように集中する。この時間だけは、SNSも見ないし、音楽もかけない。ただ、自分の呼吸と筆先の動きだけに意識を向ける。瞑想とか、マインドフルネスとか、そういう小難しいことを言うつもりはないんだけど、たぶんあれに近い感覚なんだと思う。

爪が乾くまでの時間も好きだ。何もできないから、ぼんやりと窓の外を眺めたり、天井のシミを数えたり。スマホを触ろうとして、あ、ダメだ、って思い出す。この強制的な待ち時間が、案外貴重だったりする。

そういえば前に、急いでいるときにネイルを塗って大失敗したことがある。乾ききる前に靴下を履こうとして、親指のネイルが全部靴下にくっついた。あのときの絶望感といったら。しかも出かける直前で、もう一回塗り直す時間もなくて、結局片足だけネイルなしで一日過ごした。誰も気づかなかったけど、私は一日中気になっていた。

ネイルとの出会いって、いつも突然だ。ドラッグストアをぶらぶら歩いていて、ふと目に留まる色がある。試し塗りもせずに買って、家で塗ってみたら思っていたのと全然違う色だったりする。でもそれがまた面白い。想像と違う色が、意外と自分に似合っていたりする。

今日選んだのは、オレンジがかった赤。夏の夕暮れみたいな色。この色を塗ると、なぜか元気が出る。科学的な根拠は何もないけれど、色には力があると思う。落ち込んでいるときに暗い色を選んでしまうこともあるし、逆に明るい色で気持ちを引っ張り上げようとすることもある。

右手の薬指だけ、二度塗りしてみた。他の指より少し濃くなって、アクセントになる。こういう遊びができるのも、ネイルの楽しいところ。ルールなんてないから、好きなように塗ればいい。

窓から入ってくる風が、少しひんやりしている。春の終わりの、あの独特の空気。ネイルが乾くのを待ちながら、このまま時間が止まればいいのに、なんて思う。

別に特別な予定があるわけじゃない。今日はただ、ネイルを塗りたい気分だった。それだけ。こういう理由のない行動が、案外人生を豊かにしているんじゃないかと思ったりもする。

爪が完全に乾いたら、何をしようか。まだ決めていない。とりあえず、この色をもう少し眺めていたい…だけど。
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組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:上辻 敏之

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