朝6時半のコスメは、私を私に戻してくれる

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洗面所の蛍光灯がジリジリ言ってる。

高校二年の春先、私は母親のファンデーションを勝手に使って怒られたことがある。「まだ早い」って言われて、そのときは納得したふりをしたけど、本当は全然納得してなかった。だって友達はみんなメイクしてたし、私だけすっぴんで教室にいるのが恥ずかしくて仕方なかった。結局その年の夏休み明けから、お小遣いを貯めてドラッグストアで買った安いBBクリームを使い始めた。最初は塗り方もわからなくて、首との境目が不自然で、友達に「なんか顔白くない?」って笑われたりもしたんだけど。

メイクって、別に誰かのためにするわけじゃないと思う。

よく「男子はナチュラルメイクが好き」とか雑誌に書いてあるけど、正直どうでもいい。私がファンデーションを塗るのは、ニキビ跡を隠したいからだし、アイシャドウをのせるのは、自分の目元が少しでもはっきり見えたほうが気分がいいから。それだけ。朝、鏡の前に立って、ポーチからコスメを取り出す瞬間、なんていうか、自分が自分をちゃんと扱ってる感じがする。昨日の疲れた顔をリセットして、今日の顔をつくる。そういう儀式みたいなもの。

ちなみに私が一番好きなのは、リップを塗る瞬間だ。

色がのった瞬間に顔の印象がパッと変わるのが面白い。最近使ってるのは「ルナティアローズ」っていうブランドの、ちょっとくすんだピンク。派手すぎないけど血色はよく見える絶妙なやつ。これを塗ると、なんとなく「今日もいけそう」って思える。根拠はないんだけど、気持ちが前を向く感じ。逆にリップを忘れた日は一日中テンションが上がらない。

高校三年になって、進路のことを考え始めたころ、私は一時期メイクをやめてみたことがある。受験勉強に集中しなきゃいけないし、朝の10分が惜しかったから。でも一週間もしないうちに、鏡を見るのが嫌になった。すっぴんの自分が嫌いなわけじゃないんだけど、なんだか「ちゃんとしてない自分」を見せられてる気がして落ち着かなかった。結局またメイクを再開して、そのかわり朝5分で終わる手順を確立した。ベースメイクは薄く、眉毛だけしっかり、リップで仕上げ。これで十分明るい表情はつくれる。

メイクをすることで、私は自分に「今日も頑張ろう」って声をかけてる。

別にすっぴんが悪いとか、メイクしないとダメだとか、そういう話じゃない。ただ私にとって、コスメは鎧みたいなものなんだと思う。外に出るための準備。世界と向き合うための装備。ファンデーションのカバー力とか、マスカラのボリュームとか、そういうスペック的な話じゃなくて、もっと内側の話。自分が自分でいるための道具。

友達の中には「メイクめんどくさい」って言う子もいるし、それはそれで全然いいと思う。でも私は、あの朝の静かな時間が好きだ。まだ家族が起きてこない時間帯に、洗面所で一人、自分の顔と向き合う時間。ブラシを動かす音、パウダーの甘い匂い、冷たいリキッドが肌に触れる感覚。そういうのが全部、私を今日という日に連れ出してくれる。

メイクは力、っていうのは大げさかもしれないけど、少なくとも私にとってはそう。

別に完璧な仕上がりを目指してるわけじゃないし、プロみたいな技術があるわけでもない。ただ、自分の顔に手をかける時間が、自分を大事にしてる実感になる。それだけで十分かなって思ってる。今日も鏡の前に立って、いつものポーチを開く。

それでいいんじゃないかな、たぶん。
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組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:上辻 敏之

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