鏡の前に座り、メイクブラシを手に取る私の指先が、わずかに震えていた。今夜は年に一度の大切な同窓会パーティー。久しぶりに会う旧友たちの顔を思い浮かべながら、丁寧にファンデーションを肌に馴染ませていく。
化粧台には、いつもより多くのコスメが並んでいる。普段使いのナチュラルメイクではなく、今夜は特別なメイクアップに挑戦することにした。艶やかなアイシャドウパレットを開くと、深みのあるバーガンディと上品なゴールドラメが私を誘惑する。指先でそっと色を重ねていくと、目元が華やかに生まれ変わっていく。
鏡に映る自分の表情に、期待と不安が交錯している。卒業以来、5年ぶりの再会。あの頃、密かに想いを寄せていた彼も来るのだろうか。SNSでは時々その近況を垣間見ていたが、実際に会うとなると胸の鼓動が早くなる。
リップグロスを唇に丁寧に塗りながら、学生時代の思い出が走馬灯のように駆け巡る。放課後の教室で交わした何気ない会話、文化祭の準備で夜遅くまで残った日々、卒業式の後の別れ際の微笑み。すべてが懐かしく、そして新鮮に蘇ってくる。
香水を手首と首元にそっとつける。甘くフローラルな香りが部屋に広がり、私の気持ちを高揚させる。選んだドレスは、深いネイビーのシフォン。肩のラインを優しく包み、裾がふわりと揺れる。鏡の中の私は、普段の自分とは少し違って見える。
メイクの仕上げに、ハイライトを頬の高いところにそっとのせる。光を受けて上品な輝きを放つパウダーが、私の表情をより立体的に演出する。まつげにマスカラを塗る時、手が少し震えた。完璧に仕上げたいという思いと、これから始まる夜への期待が入り混じって。
玄関に置いたヒールを履きながら、今夜起こるかもしれない出会いに思いを巡らせる。懐かしい顔々に会えることへの喜びはもちろん、もしかしたら新しい出会いがあるかもしれない。そんな予感が、心をときめかせる。
タクシーの中で、スマートフォンのカメラで最後のチェック。つけまつげは自然な角度で馴染み、アイラインも理想的な仕上がり。チークの色も程よく、顔全体のバランスが絶妙だ。
会場に着くと、すでに何人かの懐かしい顔が見える。「久しぶり！」という声が飛び交い、懐かしい香水の香りや、懐かしい笑顔が私を包み込む。そして、その瞬間、彼の姿が目に入った。少し大人びた表情になっていたけれど、優しい目元は昔のまま。
パーティーが進むにつれ、化粧直しのために何度かパウダールームへ。鏡の前で口紅を直しながら、昔の仲間たちと近況を語り合う。結婚した人、海外で働いている人、起業した人。みんなそれぞれの道を歩んでいた。
夜が更けていく中、メイクは少しずつ崩れていくけれど、それも素敵な思い出の一部になっていく。頬が紅潮するのは、シャンパンのせいだけじゃない。懐かしい人々との再会、新しい出会い、そして彼との何気ない会話。すべてが特別な輝きを放っている。
帰り際、彼が「また会おう」と言ってくれた。その言葉に、心臓が大きく跳ねる。リップグロスは薄れていたかもしれないけれど、笑顔は最高に輝いていたはず。
家に帰って、クレンジングオイルで丁寧にメイクを落としながら、今夜の出来事を一つ一つ思い返す。目を閉じると、パーティーの賑わいが蘇ってくる。懐かしい声、新しい笑顔、心躍る瞬間の数々。
化粧水をコットンに含ませ、顔全体を優しく拭き取っていく。素肌に戻っていく過程で、今夜の特別な時間が、確かな思い出として心に刻まれていく。明日からはまた普段の生活に戻るけれど、この夜に感じた胸の高鳴りは、きっと長く心に残るだろう。
ナイトクリームを塗り終えて、もう一度鏡を見つめる。化粧を落とした素顔には、幸せな余韻が漂っている。メイクアップアイテムたちを丁寧に片付けながら、次はいつ、どんな特別な日のために、この化粧台に向かうのだろうと、静かな期待を抱く。
枕に横たわりながら、スマートフォンに保存したパーティーの写真を眺める。完璧なメイクと、輝く笑顔。そして何より、心の中に芽生えた新しい期待。明日からの日々が、今までとは少し違って見えそうな予感がする。
目を閉じる前に、今夜使ったコスメたちに心の中で感謝を告げる。彼らは私の気持ちを表現する道具であり、大切な思い出の証人となった。おやすみなさい、また次の特別な日まで。そう呟きながら、幸せな余韻に包まれて眠りについた。
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