鏡の前に座り、メイクブラシを手に取る私の指先が、わずかに震えていた。今夜は年に一度の大切な会社のパーティー。普段はオフィスカジュアルで過ごす同僚たちが、艶やかなドレスに身を包んで集まる特別な夜。化粧台に並べられたコスメたちが、まるで私を応援するように輝いている。
ファンデーションを丁寧に伸ばしながら、私は昨年のパーティーを思い出していた。あの夜、営業部の山田さんと初めて言葉を交わしたのだ。普段はすれ違う程度の関係だったが、シャンパングラスを傾けながら、意外にも共通の趣味である映画の話で盛り上がった。それ以来、社内で会えば軽く会話を交わす仲になり、今では密かに特別な感情を抱いている。
アイシャドウパレットを開き、深みのあるブラウンを選ぶ。普段よりも少しだけ濃いめのグラデーションで、大人の魅力を演出したい。ブラシで色を重ねていくたびに、心臓の鼓動が早くなる。今夜、山田さんはどんなスーツを着てくるだろう。私の化粧の変化に気づいてくれるだろうか。
マスカラを塗りながら、パーティー会場でのシーンを想像する。クリスタルのシャンデリアの下で、また昨年のように自然と会話が弾むことを願って。まつ毛を丁寧にセパレートしながら、期待と不安が入り混じった感情が胸の中でうねりを上げる。
チークは、いつもより少しだけ鮮やかなローズピンクを選んだ。頬に色を乗せていくと、まるで今から起こる素敵な出来事を予感させるような、華やかな表情が鏡に映る。艶やかな仕上がりに、自然と笑みがこぼれる。
リップは迷った末に、新調したモーヴピンクを選択。艶めかしすぎず、かといって地味すぎない絶妙な色味だ。唇に丁寧に色を重ねながら、山田さんと話すときの表情を意識する。笑顔が自然に見えるよう、何度も鏡で確認。
仕上げに、さりげなくラメの入ったハイライトを頬の高い位置にのせる。光を受けて上品に輝く肌は、まるでシンデレラのような魔法をかけられたよう。普段の自分とは少し違う、特別な夜にふさわしい私がそこにいた。
髪をゆるやかなウェーブにスタイリングしながら、今夜の予定を頭の中で整理する。オープニングの乾杯、立食パーティーでの会話、そして深夜までのダンスタイム。全てが特別な思い出になることを願って。
ドレッサーに置いた香水を手に取り、首筋とデコルテにそっと吹きかける。甘くフローラルな香りが部屋に広がり、気持ちを高揚させる。この香りと共に、素敵な夜の記憶が刻まれることを願って。
最後にもう一度、全体の仕上がりを確認する。普段よりも念入りに施したメイクは、確かな自信を与えてくれる。鏡に映る私は、期待に胸を膨らませながらも、凛とした表情を浮かべている。
時計を見ると、そろそろ家を出る時間だ。お気に入りのクラッチバッグにリップとパウダーを忍ばせ、玄関に向かう。靴を履きながら、今夜という特別な時間への期待が膨らむ。
タクシーに乗り込み、会場のホテルへと向かう車窓から、街の夜景が煌めいて見える。化粧直しのために開いた手鏡に映る自分の表情に、わくわくとした気持ちが溢れる。
パーティー会場に到着し、エレベーターに乗り込む。上昇していく階数とともに、胸の高鳴りも増していく。扉が開くと、すでにシャンパンの栓を開ける音や、華やかな会話が聞こえてくる。
深呼吸をして会場に足を踏み入れると、まるでスポットライトを浴びているような気分になる。普段とは違う装いの同僚たちが、次々と声をかけてくれる。その度に、メイクに込めた想いが報われたような嬉しさを感じる。
そして、会場の向こう側で山田さんの姿を見つける。スタイリッシュなダークスーツに身を包んだ彼が、こちらに気づいて微笑みかけてくれる。その瞬間、念入りに施したメイクのおかげで、動揺を悟られることなく自然な笑顔を返すことができた。
シャンパングラスを手に、ゆっくりと彼の方へ歩み寄る。光沢のあるドレスの裾が、優雅に揺れる。今夜という特別な時間の中で、化粧台の前で想像していた通りの素敵な出会いのシーンが、まさに目の前で展開されようとしていた。
この夜のために選び抜いたコスメたちは、私の気持ちを確かに後押ししてくれている。普段の自分に少しだけ魔法をかけてくれる化粧の力を借りて、特別な夜の物語が今、始まろうとしていた。シャンデリアの光が、私たちの新しい章の幕開けを祝福するように、きらめいている。
コメント