目が覚めたとき、カーテンの隙間から差し込む光が、畳の上に細長い白を引いていた。9月の終わりの朝は、夏の名残と秋の冷気が入り混じって、窓を開けるとほんのり金木犀の気配がする。今日は休日だ。アラームも、通知も、誰かのスケジュールも関係ない。
洗面台の前に立ち、鏡を見る。すっぴんの自分と、しばらく目が合う。化粧をしなくていい日だからこそ、逆に「今日は自分のためだけに、ちゃんとやってみよう」という気持ちが静かに湧いてきた。仕事の日とは違う。誰かに見せるためではなく、自分が心地よくあるための時間。
2026年のメイクトレンドは、素肌感ベース×部分強調へと大きくシフトしている。ファンデーションを最小限に抑えて素肌の質感を活かす薄づき仕上げが主流で、「全部完璧に仕上げる」よりも「どこか1つだけ目立たせる」バランス感覚こそが今年らしさといえる。
そのことを知ったとき、正直ほっとした。完璧じゃなくていい。それは休日の朝に、一番似合う哲学だと思う。
まずは洗顔。ぬるま湯が両手のひらにたまる感触、泡が頬に触れる柔らかさ。洗い流すと、肌がひんやりして、少しだけ目が覚める。タオルで顔を押さえながら、棚の上の小瓶に手を伸ばした。「ヴェルドゥ・モス」という小さなナチュラルコスメブランドのフェイスオイル。オーガニックのローズヒップとホホバが配合されていて、蓋を開けると植物の青みを帯びた香りがふわりと広がる。この匂いを嗅ぐたびに、子どもの頃に祖母の庭で摘んだハーブの束を思い出す。あのとき何の花だったかは、もう覚えていないけれど。
オイルを数滴、手のひらで温めてから顔全体に馴染ませる。鏡の中の自分の肌が、少しだけ光を帯びる。それだけで、今日の気分がひとつ上がった。
ナチュラルメイクのトレンドとして、ブランドを揃える必要はなく、各アイテムで自分に合うものを選ぶ「ミックス&マッチ」スタイルが、メイク上級者の楽しみ方として広まっている。
そう知ってから、コスメポーチの中身が少し変わった。高いものも安いものも、好きなものを自由に混ぜていい。そのほうが、なんだか自分らしい気がする。
日焼け止めを薄く伸ばして、チークをひとはけ。今日選んだのはくすんだテラコッタ色で、秋の入り口にちょうどいい。眉は整えるだけ。リップは艶のあるベージュを、指先でぽんぽんと叩き込む。——ここで少しだけ失敗した。力を入れすぎて、唇の輪郭からはみ出た。「あ」と声に出てしまって、でも誰もいないからそのまま笑った。ティッシュで軽く直して、まあいいか、と思えるのも休日の特権だ。
2026年夏から秋にかけて、「ミュートメイク」と「サマーベージュメイク」が注目を集めており、清潔感と品をさりげなくプラスするスタイルが人気だ。
派手さではなく、静けさで魅せる。そういう美しさが、今の自分にはしっくりくる。
メイクを終えて、コーヒーを淹れた。豆を挽く音が部屋に響いて、湯気が窓ガラスをうっすら曇らせる。カップを両手で包むと、ほどよい熱が手のひらに伝わってきた。ソファに座って、鏡の前とは違う自分の顔を、スマートフォンのカメラで一枚だけ撮る。誰かに送るわけでも、SNSに上げるわけでもない。ただ、今日この瞬間の自分を記録したかっただけ。
リラックスとは、何もしないことではないと最近思う。自分のペースで、自分の好きなものに触れて、誰の目も気にせずにいられること。休日の朝に、自分のためだけにコスメと向き合う時間は、その最たるものかもしれない。
光が部屋の奥まで伸びてきた。今日はどこへ行こうか、まだ何も決めていない。それでいい。
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組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:上辻 敏之

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