空が青い。ただ、それだけのことが、こんなにも気持ちをほどいてくれるとは思っていなかった。
六月の午後二時すぎ、待ち合わせの公園に着いたとき、太陽はすでに芝生の上に惜しみなく降り注いでいた。木陰のベンチにはすでに友人のミキとハルが座っていて、ミキは持参したピクニックシートを広げようとして、風に三回持っていかれていた。「もう!」と笑いながら両端を靴で押さえる姿を見て、思わず駆け寄った。ちなみに彼女の靴は白いスニーカーで、芝の緑が少しついていた。それもなんだかよかった。
遊ぶ、という行為について、大人になると少しだけ言い訳が必要になる気がする。予定を立てて、場所を決めて、ちゃんとした理由を用意して。でも本当はそんなもの、いらないのかもしれない。子どものころ、夕暮れになっても家に帰りたくなくて、近所の小さな公園でブランコを漕ぎ続けた記憶がある。あのときも、理由なんてなかった。ただ、そこにいることが楽しかった。
シートに腰を下ろすと、草の匂いがふわりと鼻をかすめた。少し湿った土の香りと、どこかから漂ってくる花の甘さが混ざり合っている。遠くでは子どもたちが笑い声をあげながら走り回っていて、その声が公園全体に溶けていくような感覚があった。風が吹くたびに木の葉がさらさらと揺れ、光が細かく砕けて地面に散らばる。
ハルがリュックから取り出したのは、架空のコスメブランド「ルミエール・ソレイユ」のリップグロスだった。透明感のあるピンクで、太陽の光に当たるとほんのり輝く。「これ、外で使うと映えるんだよね」と言いながら、鏡を取り出して塗り始める。確かに、自然光の中で見るコスメは室内とは全然ちがう。蛍光灯の下では気づかなかった色の深みや、肌への馴染み方が、太陽の下では正直に出る。公園という場所は、実は最高のコスメテスターかもしれない。
三人で寝転がって、空を見上げた。雲がゆっくり動いていく。ミキが「あの雲、クマに見える」と言い、ハルが「どう見てもパンだよ」と返す。私にはどちらにも見えなかったけれど、それを言い出すタイミングを逃してしまって、結局ただ笑っていた。
遊ぶことで、何かが回復する。うまく言葉にできないけれど、仕事の締め切りや、返信しそびれたメッセージや、なんとなく続いていた疲れが、太陽と笑い声の中でゆっくりほぐれていくような感じがある。特別なことは何もしていない。ただ公園に来て、シートを広げて、コスメを見せ合って、空を眺めていた。それだけなのに、帰り道の足取りが確かに軽かった。
夕方近くになると、太陽が少し傾いて、光の色がオレンジがかってくる。芝生の影が長くなり、空気の温度がひとつ下がった。ミキが「そろそろ行こうか」と言いながら、ピクニックシートをたたみ始める。今度は風に持っていかれなかった。
また来よう、と思った。理由なんて、やっぱりいらない。
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組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:上辻 敏之


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