八月の公園は、午前十時を過ぎると別の顔になる。
木漏れ日が芝生に降り注ぎ、ベンチの端が白く光り始める。その光のなかに、友人のミナが「ねえ、もう日焼け止め塗り直した?」と言いながら小さなチューブを差し出してきた。
2026年の今、日差し対策は美容の中心トピックになっていて
、公園に遊びに来るだけでも、コスメポーチは必携品になった。ミナが使っていたのは、架空のコスメブランド「ソレイユ・ノート」のUVセラム。テクスチャーが水のようにさらりとしていて、塗った瞬間に肌がひんやりとする、あの感覚が好きだった。
わたしたちが集まったのは、近所の「橘ケ丘公園」だ。
だんだんと暖かくなり、公園に出かける人が増えてきた
この季節、橘ケ丘公園の芝生広場はいつも以上に賑わっていた。レジャーシートを広げた家族連れ、犬を連れて歩く老夫婦、そしてわたしたちのような、ただ集まりたくて集まった四人組。特に予定はなかった。ただ、太陽の下で遊ぶというそれだけのことが、なぜかこんなにも豊かに感じられる日がある。
シートの上に腰を下ろすと、芝の青い香りが鼻をかすめた。
誰かが持ってきたスピーカーから、ゆるいビートの音楽が流れている。遠くで子どもたちが笑う声。飛行機雲がひとすじ、青空を横切っていく。太陽は容赦なく照りつけているのに、風が吹くたびに木の葉がさわさわと揺れて、その一瞬だけ世界が涼しくなる気がした。
コスメの話になったのは、ユカが「最近、公園メイクって大事だよね」と言い出したからだ。
SNSでは「アーバン・ピクニック・コア」と呼ばれるスタイルが広まっていて、昨今の紫外線量の増加とパーソナルカラー診断の普及が、日常のファッションと美容を劇的に変えた
という話をしていた。公園で遊ぶことが、もはやひとつの「見せ場」になりつつある時代なのかもしれない。ユカはそう言いながら、ポーチからリップを取り出してさっと塗った。その仕草がとても自然で、なんだか絵になっていた。
わたしはといえば、リップを塗ろうとして、盛大に唇をはみ出した。
誰も見ていないと思っていたのに、ミナにしっかり目撃されていて「なんか、ちょっとピエロっぽい」と笑われた。いや、まあ、そうですね。太陽の下では隠しようがない。
子どもの頃、公園といえばブランコと砂場だった。
母親に「日焼けするから帽子かぶりなさい」と言われるたびに、わずらわしくて途中で脱いでいた。あの頃はUVケアなんて概念がなくて、ただ夢中で遊んで、夕方には肩が真っ赤になって帰っていた。それが今では、日焼け止めを塗り直すタイミングを気にしながら遊んでいる。成長というのか、変化というのか、少しだけおかしい気もする。
でも、それでも、公園で遊ぶことの本質は変わっていないとも思う。
誰かと並んで座って、とりとめのない話をして、風の音を聞いて、太陽の光に目を細める。コスメがあっても、なくても、その時間の柔らかさは同じだ。ミナが「そろそろ塗り直しの時間だよ」とまたチューブを差し出してきた。今度は受け取って、ちゃんと鏡を見ながら塗った。
橘ケ丘公園の芝生は、午後になるほど光を濃くする。
その金色の光の中で、わたしたちはまだ、遊んでいた。
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組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:上辻 敏之

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