七月の午後二時すぎ、空が白く溶けるような暑さの中で、私たちは「ルミエール中央公園」に集まった。待ち合わせは噴水広場の前。友人のナナが「日焼け止めちゃんと塗ってきた?」と開口一番に言ったので、思わず「あ、忘れた」と答えてしまった。正確には塗ったのだが、家を出る直前に慌てて鞄に詰め込んだコスメポーチの中身を確認するのを忘れていて、日焼け止めが入っていないことに公園の入口で気づいたのだ。三人で笑いながら、ナナのを少し借りた。人のものを借りると、なぜか自分のより丁寧に塗ってしまうのが不思議だ。
公園の芝生は、踏むたびにやわらかく沈んだ。靴底から伝わるその感触が、子どもの頃に近所の河川敷で走り回っていたときのことを思い出させた。あのころ、太陽は今よりもっと無条件に降り注いでいたような気がする。恐れるものでも避けるものでもなく、ただ眩しくて、汗くさくて、それでも外に出たくてたまらなかった。
今日の太陽はそれと少し似ていた。強く、白く、まっすぐで。木陰に入ると体がほっと緩む。その境界線がくっきりしていて、光と影の間を行き来するだけで遊んでいるような気持ちになった。
ミキが持ってきたレジャーシートを広げて、三人でしばらく何もしなかった。しなかった、というより、できなかった。あまりに気持ちよくて。風が草の匂いを運んでくるたびに、誰かが「ん〜」と声を漏らした。どちらかというとミキだったと思う。彼女はいつもこういう瞬間に、言葉より先に声が出る。
遊ぶ、といっても大人になると形が変わる。フリスビーを持ってきたのはナナで、最初の一投目が見事に池の方へ飛んでいった。「え、どこ狙ってたの」とミキが言い、ナナは「風のせい」と即答した。その後三十分ほど、芝生の上でフリスビーを追いかけた。走って、転んで、笑って、また走った。コスメが崩れることなんて、そのときは誰も気にしていなかった。
一段落して木陰に戻ったとき、ミキがバッグから水筒を取り出して、なにも言わずに私のほうへ差し出した。ふとした仕草だった。ただそれだけのことなのに、なんだか胸があたたかくなった。水筒の表面は少し汗をかいていて、受け取った指先に冷たさが伝わった。「ありがとう」と言ったら、彼女はもう別の方向を向いていた。
公園の外れにある売店で、かき氷を三つ買った。いちご、メロン、宇治金時。宇治金時を選んだのは私で、食べながら「これ抹茶の香りが本物っぽい」と言ったら、「そんなわかる?」とナナに笑われた。わかるかどうかは正直わからないが、少なくともそう感じた。緑の色素が舌に残って、帰り道に鏡を見たら口のまわりが薄く染まっていた。コスメで整えた顔に、かき氷の緑。これはこれで、夏らしいかもしれない。
太陽が少し傾いてきたころ、芝生の色が変わった。昼間の白っぽい光から、夕方に近い金色へ。影が長くなって、公園全体がゆっくりと落ち着きを取り戻していく。その時間帯が一番好きだ、とミキが言った。私もそう思う、とナナが答えた。私は何も言わなかったけれど、同じことを思っていた。
遊ぶということは、何かをすることだけじゃない。こうして芝生の上に座って、風の音を聞いて、誰かの隣にいることも、きっとそのひとつだ。子どもの頃は夢中になって体を動かすことが「遊ぶ」だと思っていた。でも今は、こういう時間の流れ方そのものが、遊びの正体なのかもしれないと思っている。
帰り際、ナナが「また来よう」と言った。約束でも宣言でもなく、ただそうつぶやいた。公園の出口で振り返ると、さっきまで座っていた芝生に夕日が斜めに差し込んでいた。誰もいない場所なのに、まだ私たちの体温が残っているような気がした。そんなはずはないのだけれど。
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組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:上辻 敏之

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