**女子高生のコスメ革命——ナチュラルメイクが、明るい表情を連れてくる日**

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九月の朝はまだ、夏の名残をひきずっている。

窓から差し込む光が斜めで、やけに鋭い。制服のえりに当たって白く反射するそれを横目に、彼女は小さな鏡の前に座った。洗面台ではなく、勉強机の隅に置いた折りたたみ式の鏡。ブランドは「ルミエ・ポッシュ」という架空めいた名前で、でも彼女には確かに実在するものだ。去年の誕生日に友達からもらった、くすんだゴールドフレームのやつ。

まず、日焼け止めを伸ばす。指の腹で、こめかみから鼻筋へ、ゆっくりと。肌に馴染む感触は、冷たくも温かくもない、ちょうど体温に近い何かだ。この一手間が好きだった。塗るというより、整えるという感じ。

ナチュラルメイクが似合うと言われる女の子は、淡い色がしっくりきて、やさしい雰囲気に見られることが多い。
でも、彼女がナチュラルメイクを選んだのは、似合うからじゃなかった。校則があったから、というのも半分だけ本当で、もう半分は、素の自分に少しだけ色を足したときの、あの静かな変化が好きだから。足し算じゃなくて、掛け算みたいな感じ。

BBクリームをスポンジで叩き込む。トントン、トントン。音というより、リズムがある。

チークは今、ベリーピンクとコーラルが旬だという。
彼女が持っているのはコーラル系の安いやつで、百均で買ったブラシで頬骨のあたりにふわっとのせる。鏡の中の自分が、ほんの少し、生きているみたいになる。それが毎朝の、小さな儀式だった。

思い出すのは、小学生のころ、母親の化粧台を勝手に開けた記憶だ。口紅のケースがずらっと並んでいて、どれも使いかけで、どれも大人の匂いがした。触っちゃいけないとわかっていながら、一本だけ開けて、唇に当ててみた。真っ赤だった。鏡を見て、笑った。笑ったら余計に変だった。でも、なんか、すごかった。あの瞬間から、コスメは「大人のもの」じゃなくて「自分を変えるもの」になった気がする。

今の女子高生のあいだでは、透けキラコスメや血色チークが話題になっている。
トレンドは毎月のように塗り替わるけれど、彼女にとってメイクの本質はずっと変わらない。鏡の前に立って、今日の自分を決めること。それだけだ。

アイシャドウは薄めのブラウンを一色だけ。まぶたにのせると、目の奥に奥行きが生まれる。マスカラは下まつげに少しだけ。
まつ毛がキレイだと、顔に清潔感が生まれて一気に垢抜ける。
細いブラシを使うのが彼女のこだわりで、目頭のぎりぎりまで丁寧に塗る。このとき、ちょっとだけ口が半開きになる。集中すると口が開く癖があって、本人は気づいていない。(鏡を見ているのに、鏡に映っていないものがある、というのは少し面白い。)

最後にリップを引く。透明に近いグロスで、唇がつやっとする。それだけで、顔全体が前に出てくる感じがした。

完成した顔を、三秒だけ見つめる。

明るい表情、というのは、作るものじゃないと思っていた時期があった。でも違う。明るい表情は、選ぶものだ。今日どんな自分でいるかを、毎朝ここで決めている。コスメはその道具で、魔法じゃないけれど、魔法に近い何かだ。

肌へと溶け込み、霞のように発色するカラーに心惹かれる季節がある。
九月はまだその季節の入り口で、夏の皮膚と秋の光が混ざり合っている。彼女はリュックを肩にかけ、折りたたみ鏡をそっと閉じた。

メイクは力だと、誰かが言っていた。

その言葉の意味が、最近やっとわかってきた気がする。強くなるための力じゃなくて、今日の自分をちゃんと連れていくための力。女子高生がコスメを手に取るとき、そこにあるのはきっと、そういう小さくて確かな意志だ。

玄関のドアを開けると、九月の風が頬をかすめた。コーラルのチークが、朝の光の中でほんの少し、きらめいた。
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組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:上辻 敏之

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