**コスメは、わたしに言葉をくれる——女子高生のナチュラルメイクと、明るい表情の作り方**

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九月の終わりの朝は、まだ少しだけ夏の残り香がする。窓から差し込む光が、洗面台の鏡をうっすらと白く染めて、その中に彼女の顔が浮かんでいた。

ポーチのジッパーを引く音。小さくて、でも静かな朝にはっきりと響く。彼女はそこから一本のリップを取り出して、ゆっくりとキャップを外した。

2026年のメイクトレンドは、「作り込まずナチュラルで勝負する」という時代の流れから生まれている。
女子高生たちのあいだでも、それはたしかな空気として広がっていた。厚く塗り重ねるより、素肌の質感を活かしながら、どこかひとつだけを輝かせる。そのバランス感覚が、今という時代のメイクの作法だ。

彼女が使うのは、「ルミエール ドゥ ロゼ」という小さなブランドのティントリップ。プチプラなのにうるおいが続くと、クラスの子から教えてもらった。ちょっとした口コミが、ポーチのなかに新しいコスメを連れてくる。それが女子高生の世界のやさしい連鎖だと思う。

2026年春のメイクキーワードは「抜け感」「素肌感」。全体に均一なメイクで仕上げるより、どこかを「抜く」ことで今っぽい軽やかさが生まれる。
彼女はそれを、理屈ではなく感覚で知っていた。アイシャドウは薄く。眉は毛流れに沿って、ふんわりと。そしてリップだけ、ほんのすこし色を乗せる。

鏡のなかの自分と目が合う。

リップは、ぷるんとした艶と血色感を意識するのが今っぽい。主張しすぎない色味でも、みずみずしさを加えることで、存在感のある口元が完成する。
コーラルとピンクのあいだのような色が、唇にのった瞬間、顔の印象がすこし変わった。明るい表情が、内側から滲み出てくるような感じ。メイクってこういうことだ、と彼女はぼんやり思う。

ナチュラルメイクという言葉は、「手を抜く」ということではない。むしろ逆だ。素肌をちゃんと整えて、必要なところだけに色を置いて、余白を大切にする。それは、相当な意識と、ちょっとした勇気がいる。

ふと、子どもの頃のことを思い出した。母の化粧台の前に座って、口紅をこっそり唇に塗ってみた日のこと。色が濃すぎて、顔がおかしなことになって、慌ててティッシュで拭いたのに全然落ちなくて——結局母に見つかって、笑われたのか怒られたのか、今となってはよく覚えていない。あの頃はコスメが「大人のもの」に見えた。触れてはいけない、でも触れたくてたまらないもの。

今は違う。

チークはほんのりが今年のトレンド。淡いコーラルやベージュピンクを、大きめのブラシでふんわりとのせる。一見チークをつけていないかのような、自然な血色感が理想的。
彼女はブラシを頬にあてながら、窓の外の空を見た。九月の朝の光は、夏ほど強くなくて、でも秋ほど冷たくもない。うっすらと金色で、やわらかい。その光の中で、チークの色がちょうどよく溶けていった。

ここで少し正直に言うと、今日は左右の眉の高さが微妙にずれた。気づいたのはすべて終わったあと。直そうとしてさらにバランスを崩し、最終的に「まあ、いいか」と鏡に言い聞かせた。女子高生のメイクには、そういう小さな妥協と潔さが宿っている。

青みのある淡いカラーを取り入れることで、透明感がぐっと引き立つ。ナチュラルメイクが似合う、やさしい雰囲気。
そういう言葉が、今の彼女にはよく似合っていた。

メイクは力だ、と思う。人前に出る前の、自分との小さな約束みたいなもの。完璧じゃなくていい。ただ、鏡の前に立って、自分の顔と向き合って、今日の自分を整える。その行為そのものに、意味がある。

ポーチをしまって、制服の襟を直して、玄関のドアを開けると——秋の始まりの空気が、頬にふわりと触れた。涼しくて、少しだけ甘い匂いがする。今日もいい一日になる気がした。コスメが、そう思わせてくれた。
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組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:上辻 敏之

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