朝の光が部屋に差し込む中、私はドレッサーの前に座り、お気に入りのネイルボトルを手に取った。今日は何だか特別にワクワクする気分。透明感のあるピンクベージュのポリッシュを選び、丁寧にボトルを振る。カラカラという音が心地よく響き、これから始まる小さな儀式への期待が高まっていく。
ネイルを塗るという行為は、私にとって単なる身だしなみ以上の意味を持っている。それは自分自身と向き合う静かな時間であり、心を整える大切な習慣なのだ。慌ただしい日常の中で、指先に意識を集中させるこのひとときは、瞑想にも似た穏やかさをもたらしてくれる。
筆先が爪の表面に触れる瞬間、私の呼吸は自然と深くゆっくりになる。一筆一筆、丁寧に色を重ねていく。焦らず、急がず、ただ目の前の作業に没頭する。この集中力が、散らかっていた思考を整理し、ざわついていた心を静めてくれるのだ。コスメの力は不思議だ。小さなボトルの中に、こんなにも豊かな時間が詰まっているなんて。
ネイルカラーを選ぶときも、その日の気分や心の状態が反映される。元気な日は明るいコーラルピンクやビビッドなレッド、少し疲れている日は落ち着いたベージュやグレージュ。今日選んだピンクベージュは、穏やかでありながらも前向きな気持ちを表している。自分の内面と対話しながら色を選ぶプロセスそのものが、セルフケアの一部になっているのだと気づく。
右手の爪がすべて塗り終わり、左手に移る。利き手でない左手で右手の爪を塗るのは少し難しいけれど、この不器用さもまた愛おしい。完璧でなくてもいい。少しはみ出したって、後で修正すればいい。そんな寛容さを自分に許せるようになったのは、ネイルを通じて学んだことかもしれない。
実は、このネイルへの愛着は、ある出会いがきっかけだった。半年前、行きつけのカフェで隣に座った女性の指先が目に留まった。シンプルだけれど品のある淡いラベンダーカラーのネイル。その美しさに思わず声をかけてしまった。「素敵なネイルですね」と。彼女は嬉しそうに微笑み、自分でセルフネイルを楽しんでいることを教えてくれた。
その日から、私たちは時々カフェで会ってはネイルやコスメの話をするようになった。彼女から教わったのは、ネイルのテクニックだけではない。自分を大切にすることの意味、小さな美しさに気づく感性、そして何より、静かな心で自分と向き合う時間の価値だった。彼女自身が、いつも穏やかで芯の強い人で、その在り方が私の憧れになった。
ネイルを塗りながら、私は彼女との会話を思い出す。「忙しい毎日だからこそ、こうして自分のために時間を使うことが大切なの」という言葉。最初はピンとこなかったけれど、今ならよく分かる。指先という小さな部分に意識を向けることで、心全体が落ち着いていく感覚。これは決して時間の無駄ではなく、自分への投資なのだと。
トップコートを塗り終え、両手を広げて眺める。艶やかに輝く指先を見ていると、自然と笑顔がこぼれる。この小さな達成感が、一日を前向きに始める原動力になる。ネイルコスメという小さな道具が、こんなにも大きな幸福感をもたらしてくれることに、改めて感謝の気持ちが湧いてくる。
ドレッサーの引き出しには、様々な色のネイルボトルが並んでいる。それぞれに思い出があり、それぞれの色が異なる気分を表現してくれる。このコレクションは、私の心の記録でもある。新しい色を試す冒険心、お気に入りの色に戻る安心感、季節に合わせて選ぶ楽しさ。すべてが私の日常を彩る小さな喜びだ。
ネイルが完全に乾くまでの待ち時間も、私は好きだ。何もできない、何もしない時間。ただ静かに座って、窓の外を眺めたり、お気に入りの音楽を聴いたり。現代社会では珍しい、強制的な休息の時間。この余白が、実は心にとって最も必要なものなのかもしれない。
指先を見るたびに、小さな幸せを感じられるようになった。キーボードを打つとき、コーヒーカップを持つとき、誰かに手を振るとき。日常の何気ない動作の中に、自分が丁寧に塗ったネイルを発見する喜び。それは自分自身を大切にしている証であり、今日も頑張ろうという静かな励ましでもある。
ネイルを通じて得た出会いと、そこから学んだ静かな心。今日も私は、ワクワクした気持ちでネイルボトルを手に取る。指先から始まる小さな物語は、これからも続いていく。コスメという魔法が、私の毎日をより豊かに、より美しく彩ってくれることを信じながら。
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組織名：株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名：上辻 敏之
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