空が高くなる季節というのは、不思議と人を外へ引っ張り出す力がある。10月の午前11時ごろ、待ち合わせ場所に指定したのは、駅から歩いて7分ほどの緑地公園「ヒカリノ原」だった。ベンチの数が多くて、芝生がきれいに刈り込まれていて、何より太陽の角度がちょうどいい。眩しすぎず、でも温かい。そういう場所を選んだのには、理由があった。
友人のミカと、もう一人の友人ユリと、三人で集まるのは実に半年ぶりだった。お互い忙しくて、LINEでスタンプを送り合うだけの時間がしばらく続いていた。だから久しぶりに「会おう」という言葉が届いたとき、わたしは少し泣きそうになった。大げさに聞こえるかもしれないけれど、本当のことだ。
公園に着くと、ミカはすでにレジャーシートを広げていた。ユリはまだ来ていなかった。芝生の上に腰を下ろすと、土と草の混ざった匂いがふわっと鼻に届く。秋の草の匂いというのは、夏のそれとは少し違う。乾いていて、少しだけ甘い。子どもの頃、学校帰りに近所の空き地で遊んでいたとき、泥だらけになりながらこの匂いを吸い込んでいたことを、不意に思い出した。
ユリが到着したのは、待ち合わせ時間から15分後のことだった。「ごめん、コンビニで迷ってた」と言いながら、両手に袋を提げて走ってくる姿が、どこかおかしくて笑えた。コンビニで迷う、という状況がまずよくわからない。でもそれがユリらしくて、三人の空気が一気にほぐれた。
太陽はもう、頭の真上に近い位置にあった。光が芝生の上に均等に降りそそいで、ミカの髪が少しだけ透けて見える。遊ぶ、というのはこういうことだと思う。何かを達成しようとするのではなく、ただそこにいて、光の中で笑っている。それだけのことが、どうしてこんなにも満たされた気持ちをくれるのか。
ユリが持ってきたのは、「ソレイユブラン」というブランドのリップグロスだった。新作だと言って、三人で塗り合った。コスメの話になると、会話のテンポが変わる。誰かが何かを試して、誰かが感想を言って、また誰かが笑う。公園の芝生の上でコスメを広げるというのは、ちょっとした非日常で、でも日常の延長で、そのあいまいさがちょうど心地よかった。
ミカがうとうとし始めたのは、昼過ぎのことだった。話の途中で、ふっと返事が途切れて、気づいたら目が閉じていた。わたしとユリは顔を見合わせて、小さく笑った。起こさないでおこうと、自然にそういう選択をした。太陽の光の中で、誰かが眠っている。それを隣で見ている。公園というのは、そういうことが許される場所だ。
遊ぶ、という行為の本質は、もしかしたら「何もしなくていい」という感覚にあるのかもしれない。予定を詰め込まなくていい。結果を出さなくていい。ただ、芝生の上に座って、太陽の温度を肌で感じて、友人の寝顔を眺めていればいい。それだけで、何かが少しずつ回復していく感じがある。
ミカが目を覚ましたとき、「寝てた?」と自分で聞いてきた。「全然」とわたしとユリは同時に答えた。もちろん嘘だ。でもその嘘が、やさしくてよかったと思う。
帰り道、公園の出口近くにある銀杏の木が、少しだけ黄色くなっていた。まだ緑の方が多い。でも確実に、季節は動いている。来週もまた来ようか、とユリが言った。ミカは「来る」と即答した。わたしも「来る」と言った。次回は誰がコスメを持ってくるか、という話になって、また笑った。
公園で遊ぶということの、なんでもないようなこの豊かさを、もっと早く思い出せばよかった。太陽の下で笑うだけで、こんなに元気になれるなんて、知っていたはずなのに、忘れていた。また来週、ヒカリノ原で。
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組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:上辻 敏之

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