鏡の前に、小さなボトルが三本、並んでいる。今夜のパーティーのために選ぼうとして、もう三十分が経っていた。
五月の夕方、窓の外ではまだ明るい光が残っている。風はやわらかく、網戸越しに入ってくる空気には、どこかの庭で咲いているのかもしれない花の気配がうっすらと混じっていた。こういう季節の変わり目に、香りを選ぶのはいつも少し難しい。冬の重たいウッディ系ではもう暑苦しい。かといって夏のシトラス一辺倒では、今夜の場には軽すぎる気がする。
「透明感のある香り」という言葉が、最近よく目に入るようになった。重たくなく、ふわっとやさしく香るタイプが好まれているらしい。
そうか、と思いながら、三本のうちの一本を手に取る。「ヴェルデ・ブラン」という名の小さなブランドのオードパルファム。友人に教えてもらって、先月の終わりに買ったばかりのものだ。白い花と、ほんの少しのムスク。嗅いだ瞬間、どこか懐かしい感じがした。
子どもの頃、母が外出前に鏡台の前に座っていた。あの香水の名前は知らないけれど、フローラルで、でも甘すぎない、空気に溶けるような香りだった。母が玄関を出ていったあと、しばらくその残り香が部屋に漂っていたのを、今でもはっきり覚えている。あの感覚に近いものを、ずっと探していたのかもしれない。
今夜のパーティーは、友人の誕生日を祝う小さな集まりだ。レストランの個室、十人ほど。カジュアルすぎず、でも格式張った場でもない。こういうシーンこそ、TPOをちゃんと考えたほうがいいと思う。
フローラルブーケ系は、結婚式やデートに適した華やかさがある一方、ムスク系は肌に馴染み「清潔感」を演出してくれる。
今夜の雰囲気には、その中間あたりが似合う気がした。
「癒されたい」「自信を持ちたい」など、感情を起点に香りを選ぶスタイルも、いまの大きなトレンドのひとつだという。
なるほど、と思う。今夜の自分はどんな気分でいたいか。主役の友人のそばで、やさしく、でも存在感のある自分でいたい。主張しすぎない香りで、でも「何かいい香りがする」と気づいてもらえるような。
もう一度、「ヴェルデ・ブラン」を手首の内側にひと吹きした。体温に溶けて、白い花がふわりと立ち上がってくる。次の瞬間、くしゃみが出た。盛大に、二回。思わず笑ってしまった。どうやら吹きすぎたらしい。香りを選ぶ儀式がこんな形で終わるとは——まあ、それも悪くない。
少し時間をおいて、もう一度嗅いでみる。今度は落ち着いていた。やさしく、でも芯のある香り。これにしよう、と決めた。
「フローラル+α」の組み合わせは変わらず人気で、フローラルに少しアクセントとなる一癖ある香りをプラスするような、遊び心がある香調が最近のトレンドだという。
このボトルも、まさにそういう設計になっている。白い花の奥に、かすかにグリーンのニュアンスがある。それが、甘さに流れすぎないように支えている。
コスメとしての香りは、見た目と違って、つけた本人だけでなく、そばにいる人の記憶にも刻まれる。今夜、友人の誕生日の席で、誰かの記憶の片隅にそっと残るような香りを連れていきたい。それはやさしい自己表現であり、場への敬意でもある。
窓の外の光が、橙色に変わりはじめていた。そろそろ支度を整える時間だ。ボトルをバッグのポケットにしまいながら、今夜が楽しい夜になる予感を、静かに感じていた。
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組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:上辻 敏之

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