目覚めたのは、六時十七分だった。カーテンの隙間から差し込む光が、白い天井をうっすら染めていた。春の朝特有の、やわらかくて少し冷たい空気。窓を少し開けると、どこかの家の朝食の香りが漂ってきた——バターを溶かすときの、あの甘くて焦げた匂い。
今日は重要な会議がある。
洗面台の前に立つと、鏡の中の自分と目が合う。昨夜遅くまで資料を確認していたせいか、まぶたがわずかに重い。でも、それでいい。今日という日に向けて、ちゃんと準備してきた。あとは、顔をつくるだけだ。
コスメポーチを開ける。いつもより丁寧に、ひとつひとつを取り出す。
まず下地から始める。指先でなじませると、ひんやりとしたテクスチャーが肌に溶けていく感覚がある。子どものころ、母が鏡台の前で化粧をする姿をよく眺めていた。ファンデーションのパフがほほをすべる音、リップを引く一瞬の静けさ。あの背中が、なぜかとても格好よく見えた。仕事に出かける大人の女性というものが、あの朝の光景の中にあった。
今、自分がその鏡台の前に立っている。
アイシャドウは、架空のコスメブランド「NOIRE LUNE(ノワール リュヌ)」のアーモンドブラウンを選んだ。くすみすぎず、華やかすぎない。オフィスで浮かない絶妙な色みで、去年の秋に友人に勧められてから手放せなくなった一本だ。ブラシでまぶたにのせると、光の粒子が細かく散って、目元に奥行きが生まれる。
リップは、赤に近いローズベージュ。普段は淡い色を選ぶことが多いけれど、今日は少しだけ攻めてみようと思った。会議室の白い壁の前で、ちゃんと「ここにいる」と示せるような色を。
仕上げにフィックスミストを顔全体に吹きかけると、ふわっと細かい霧が頬に触れた。冷たくて、気持ちよかった。
支度を終えて、コーヒーを一杯だけ飲む。今朝は豆を挽くところからやった。グラインダーの低い音が部屋に響いて、コーヒーの香りがゆっくりと広がっていった。マグカップを両手で包むと、その温かさが指先から腕へと伝わってくる。ちょうどそのとき、テーブルの上に置いていたスマホが振動して、危うくカップを落としそうになった——なんてことはない、ただの天気予報の通知だったのだけれど、心臓は少しだけ跳ねた。
出かける前に、もう一度鏡を見る。
「凛とする」というのは、どういうことだろう、とふと思う。背筋を伸ばすことでも、声を張ることでもないかもしれない。自分の仕事に、今日という日に、きちんと向き合っている——そういう内側の姿勢が、顔に、立ち方に、じわりと滲み出てくるものではないか。
コスメは、その補助線だ。鏡の前で時間をかけて自分を整えることは、ただ見た目を整えるだけじゃない。今日の自分を、ちゃんと送り出す儀式でもある。
オフィスに向かう道、桜はもう散り始めていた。薄いピンクの花びらが風に乗って、アスファルトの上をすべっていく。春の終わりかけの、少し寂しくて清々しい朝。
今日の会議、うまくいくといい。いや、うまくやる。
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組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:上辻 敏之

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