朝からなんだか気分がいい。理由なんてとくにない。強いて言えば、昨夜ちゃんと眠れたこと、それから窓の外の空が妙に澄んでいたこと、それくらいだ。
起き抜けにコーヒーを淹れて、ソファに座ったとき、ふと視界の端にネイルポリッシュの小瓶が映った。先週、駅近くの小さなコスメショップ「ルミエール・ボーテ」で一目惚れして買ったやつ。テラコッタとローズが混ざったような、名前のついていない色。ラベルには「#107 Soft Ember」とだけ書いてあった。
なんとなく今日だな、と思った。
コーヒーを飲み終えてから、テーブルの上を片付けて、ベースコートを出して、ファイルで爪の形を整えた。この一連の準備がけっこう好きだ。ネイルを塗る前のあの静けさ。何かが始まる直前の、空気がちょっとだけ凝縮するような感じ。
外は十月の午前中で、カーテン越しに入ってくる光がやわらかかった。秋の光はどこか遠慮がちで、それがかえって部屋をやさしくする。窓を少し開けていたから、金木犀のにおいがかすかに漂ってきた。毎年この季節になると、あの香りに気づいた瞬間だけ時間が止まる気がする。子どもの頃、小学校の帰り道に金木犀の木の前で立ち止まって、ランドセルを背負ったまましばらく動けなかったことを思い出した。あのときも、理由のない幸福感みたいなものがあった。
ブラシを瓶から引き抜いて、爪の根元から先へ、ゆっくりと動かす。一度目は薄く。色がのっていくのを見ているだけで、なぜか心が落ち着く。静かな心、というのはこういう状態のことを言うんじゃないかと最近思う。何もない静けさじゃなくて、小さなことに集中している静けさ。
二度目を塗り終えたとき、スマホが震えた。見ると、しばらく連絡を取っていなかった友人からメッセージが来ていた。「最近どう?」たったそれだけ。でも、このタイミングで届いたことが、なんだかおかしくて、少し笑ってしまった。ネイルを乾かしながら返信しようとして、うっかり親指の爪をスマホの画面に押しつけてしまい、せっかく塗ったばかりの爪に小さな跡がついた。完全に自業自得である。
塗り直しながら、でも悪い気はしなかった。
その友人とは、二年前の秋に出会った。共通の知人の集まりで、最初に話したのはたしかコスメの話だったと思う。「そのリップどこの?」という、ごく普通のきっかけ。出会いというのは、だいたいそういうものだ。大げさな瞬間なんてなくて、気づいたら大切な人になっている。
爪が乾くのを待ちながら、窓の外を見ていた。ベランダの手すりに鳥が一羽止まって、すぐに飛んでいった。それだけのことなのに、なぜか目で追ってしまう。
今日みたいな日は、特別なことが何も起きなくていい。ネイルを塗って、コーヒーを飲んで、友人からメッセージが来て、金木犀のにおいがして。それだけで十分すぎるくらいだ。
「#107 Soft Ember」は、乾くと思ったより深みが出た。手元を見るたびに、少しだけ気分が上がる。こういうコスメとの出会いも、人との出会いと似ているかもしれない。最初はよくわからなくて、時間が経ってから「ああ、これだ」と思う。
今日は元気な気分だ。それだけで、もう十分だと思う。
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組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:上辻 敏之

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