夕方の六時を少し回ったころ、部屋の電球がオレンジ色に傾きはじめる。その光の中で、わたしはドレッサーの前に座った。今夜はパーティーだ。久しぶりに、ちゃんとした場所へ行く。
コスメポーチをあけると、小さなころの記憶がふっとよみがえる。母の化粧台を盗み見ていた、あの夏の朝。口紅のふたをそっと開けて、においをかいでは慌てて戻した。あのころはメイクが「大人の魔法」みたいに思えていた。今は自分がその魔法を使う側にいるのに、なんだか不思議な感じがする。完全に使いこなせているかどうかは、正直まだ自信がない。
今年の夏、トレンドのアイシャドウカラーは「冷やしパープル」だと聞いていた。
青みがかったその色を指先にのせると、ひんやりとした粉の感触が肌に広がる。窓の外から、どこかの家の夕食の匂いが漂ってくる。醤油と、少しだけ甘い何か。そのギャップがおかしくて、思わず笑ってしまった。パーティーの前夜に、醤油の匂いに包まれながらパープルのアイシャドウを塗っている自分。悪くない、と思う。
鏡の中の自分と目が合う。
「濡れつや質感」が今年の夏メイクのキーワードらしく
、グロスを重ねるたびに唇が少しずつ光を帯びていく。ピーチとも、珊瑚とも言い切れない色。架空のコスメブランド「ルミエール・ソワレ」のリップグロスを初めて使ったのは先週で、まだ使い方を探っている最中だ。
今夜のパーティーには、何人かの知らない人が来ると聞いている。出会い、という言葉がふと頭をよぎる。大げさに構えるつもりはないけれど、やっぱり少しだけ、期待している。どんな人と話すのだろう。どんな声をしているだろう。どんな笑い方をするだろう。そういう小さな期待が、ブラシを動かす手をほんの少し丁寧にさせる。
チークを入れようとして、ブラシを顔に当てた瞬間、くしゃみが出た。盛大に。鏡の中の自分は、チークがほほから鼻先まで一直線に広がった状態で固まっていた。しばらく眺めて、それからゆっくり笑った。やり直し、やり直し。
チークをぼかしながら、今夜の会場のことを思う。友人から聞いた話では、港の近くにある古い倉庫をリノベーションした空間らしい。天井が高くて、むき出しの梁があって、夜になるとキャンドルの光だけで照らされるのだという。その情景を想像するだけで、胸の奥がじわりと温かくなる。
アイライナーを引く。細く、でも確かに。線が少しだけ震えたけれど、それはそれでいい気がした。完璧に整った顔より、少しだけ揺らいでいるほうが、今夜の自分には似合う。
最後に香水をひとふき。首筋に触れた冷たいミストが、すぐに体温に溶けていく。その瞬間だけ、時間がゆっくりになるような感じがした。
鏡の中の自分が、今夜の自分になった。コスメとともに纏ったのは、出会いへの期待と、小さな高揚感だ。玄関のドアを開ける前に、もう一度だけ深呼吸をする。夜の空気が、ほんの少しだけ甘かった。
#曜日コスメ
#今日のメイク
#メイクのある暮らし
#コスメ好きさんと繋がりたい
#毎日メイク
#気分で選ぶコスメ
#週末メイク
#デパコスとプチプラ
#コスメレビュー
#美容好きと繋がりたい
#日刊ブログメーカー
組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:上辻 敏之

コメント