秋の入り口、九月の終わりというのは不思議な季節だ。夏の名残を引きずりながら、空気だけがひっそりと澄んでいる。その日、わたしは友人のミカとサヤと三人で、駅から十分ほど歩いた先にある「緑葉台公園」に向かっていた。バッグの中には日焼け止めと、最近買ったばかりのリップグロス。それから、ちょっとだけ奮発したチークパレット。公園で遊ぶのに、コスメをこんなに気にするのはおかしいだろうか。いや、そんなことはない。太陽の下で会う友人に、ちゃんとかわいくいたい。それは、どこへ行くときも変わらない気持ちだと思う。
公園に着いたのは午前十一時ごろ。太陽はすでに高く、芝生の上に白い光を落としていた。ベンチに荷物を置いて、ミカが「ちょっと待って」と言いながら鞄をごそごそとあさり始めた。取り出したのは、架空のコスメブランド「ルミナス・フォレスト」のUVスプレー。「これ、塗らないと後悔するよ」と言いながら、わたしの腕にまで吹きかけてくる。ひんやりとした霧が肌に触れる感覚は、思ったより気持ちよかった。
芝生の上を歩くと、草のにおいがする。子どもの頃、近所の公園で転んで膝を擦りむいたときのことをふと思い出した。あのとき泣きながら走って帰ったのに、翌日にはまた同じ場所で遊んでいた。遊ぶことに理由なんてなかった。ただ、そこに友達がいて、太陽があって、それだけで十分だった。
サヤがシートを広げ、三人でそこに座り込む。ミカが持ってきたレモン入りのスパークリングウォーター「ソレイユ・クレール」を一口飲んだら、酸味と炭酸がいっぺんに広がって、思わず「うわ、すっぱ」と声が出た。ミカは「それが美味しいんじゃん」と笑う。その笑い方が、昔から変わっていない。
公園で遊ぶとき、コスメには正直さが求められる。崩れにくいこと。汗をかいても不自然にならないこと。そして、太陽の光の下で見ても恥ずかしくない発色であること。室内で鏡を見て決めたメイクが、外に出た瞬間に「あれ?」となることがある。あの感覚、みんな一度は経験しているんじゃないかと思う。わたしも今日、家を出る前にチークを三回塗り直した。結局、最初に塗った量が一番よかったのだけど。
サヤが突然「バドミントンしよう」と言い出して、荷物の中からラケットを二本取り出した。え、持ってきてたの。しかも一本しかないから誰かが見学になる。じゃんけんで負けたわたしが、芝生に座ってシャトルを眺めることになった。二人が打ち合うたびにシャトルが光の中を弧を描いて飛んでいく。風が少しあって、シャトルはたびたびとんでもない方向に流れていった。それを追いかけるミカが、思いきり空振りして「あー!」と叫んだ瞬間、思わず吹き出してしまった。
日差しが強くなってきた午後一時、わたしたちは木陰に移動した。葉の隙間から差し込む光が、シートの上にまだら模様を作っていた。ミカがそっとリップを塗り直す横顔を見ながら、こういう時間が好きだなと思った。特別なことは何もない。ただ公園にいて、太陽の下で遊んで、笑っている。それだけの午後が、なぜかずっと記憶に残る気がする。
帰り道、サヤが「また来ようね」と言った。次はお弁当持参で、もっとのんびりしようという話になった。そのとき、ミカがふと「チーク、すごくかわいいね」と言ってくれた。あの三回塗り直したチークが、ちゃんと報われた瞬間だった。
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組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:上辻 敏之

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