朝の光が差し込む部屋で、鏡の前に座る一人の女子高生がいた。制服のブラウスに袖を通す前、彼女は小さなポーチからコスメを取り出す。それは魔法の道具のように、彼女の一日を変える力を持っていた。
高校二年生の春、彼女は初めて本格的にメイクと向き合った。それまでリップクリームくらいしか使わなかった彼女が、友達に勧められてドラッグストアでファンデーションを手に取った日のことを、今でも鮮明に覚えている。「私に似合うかな」という不安と、「変われるかもしれない」という期待が入り混じった複雑な気持ち。レジで商品を渡すとき、手が少し震えていた。
最初は失敗の連続だった。ファンデーションを塗りすぎて顔が白く浮いてしまったり、アイラインがガタガタになったり。母親に「お化けみたい」と笑われたこともある。でも彼女は諦めなかった。YouTubeで動画を見て、雑誌を読み漁り、少しずつナチュラルメイクのコツを掴んでいった。大切なのは「盛る」ことではなく、「自分を活かす」ことだと気づいたのは、三ヶ月ほど経った頃だった。
ナチュラルメイクの魅力は、素顔を否定しないところにある。彼女が目指したのは、「すっぴん風だけど、ちゃんと整っている」という絶妙なバランス。ベースメイクは薄く、肌の質感を残しながらも、気になる部分だけコンシーラーでカバーする。眉毛は自然な形を活かして、ほんの少しパウダーで整える。アイメイクはブラウン系で優しく、まつ毛はビューラーとマスカラで自然に上向きに。チークはほんのり血色が良く見える程度に、内側から滲み出るような色づきを意識する。
コスメと向き合う時間は、彼女にとって自分と対話する大切な時間になった。鏡に映る自分の顔を見つめながら、「今日はどんな自分でいたいか」を考える。試験前の緊張した朝は、リップの色を少し明るくして気持ちを上げる。友達と遊ぶ日は、いつもより少しだけアイメイクに時間をかける。何気ない日常でも、コスメが彼女に小さな選択肢と、自分をコントロールする力を与えてくれた。
クラスメイトからも変化に気づかれるようになった。「最近、雰囲気変わったね」「なんか明るくなった？」そんな言葉をかけられるたび、彼女の心は温かくなった。実際、メイクを始めてから明るい表情が増えたと自分でも感じていた。それはコスメが顔を変えたからではなく、自分に自信が持てるようになったからだ。朝、鏡の前で「今日も頑張ろう」と思える。それだけで一日のスタートが全く違う。
彼女のポーチの中身は、今では十数点のアイテムで溢れている。高価なデパートコスメもあれば、プチプラの優秀なアイテムもある。大切なのは値段ではなく、自分に合っているかどうか。友達と情報交換しながら、新しいコスメを試すのも楽しみの一つになった。「このアイシャドウ、あなたの肌に合いそう」「このリップ、学校でも使えるよ」そんな会話が、友情をより深めてくれた。
メイクは決して「素顔を隠すもの」ではない。彼女はそう確信している。むしろ、自分の良さを引き出し、なりたい自分に近づくための道具だ。ナチュラルメイクを極めることで、彼女は自分の顔の特徴を深く知ることができた。どこにハイライトを入れれば立体感が出るか、どの色が自分の肌になじむか。それは自分自身を丁寧に観察し、受け入れるプロセスでもあった。
今朝も彼女は鏡の前でコスメを手に取る。ファンデーションのパフを肌に滑らせる感触、アイシャドウブラシの柔らかさ、リップを塗る時のなめらかさ。その一つ一つが、彼女に「私は私を大切にしている」という実感を与えてくれる。メイクは力だ。それは他人に見せるための力ではなく、自分自身を肯定し、前を向いて歩くための力。
窓の外では新しい一日が始まろうとしている。彼女は鏡の中の自分に微笑みかけた。明るい表情の自分が、そこにいた。コスメという小さな魔法が、女子高生の毎日を少しだけ特別なものに変えている。それは派手な変身ではなく、静かで確かな自信の芽生え。彼女の物語は、これからも続いていく。
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組織名：株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名：上辻 敏之
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