目が覚めたのは、まだ空が白みきる前だった。5月の朝は思いのほか早く明けて、カーテンの隙間からやわらかな光がすうっと床に伸びていた。今日は重要な会議がある。それだけで、いつもとは違う緊張感が静かに胸の奥に宿っていた。
洗面台の前に立ち、鏡を覗く。寝起きの顔はいつも少し他人みたいで、「あなたが今日の主役なの?」と問いかけたくなる。でも今日はそんな余裕もなく、化粧ポーチに手を伸ばす。
使い始めてもう三年になる下地クリームは、架空のコスメブランド「ルミエール・ド・マタン」のもの。名前の意味は「朝の光」。パリで修行した調香師が監修したというほのかなシトラスの香りが、朝の洗面所にふわりと広がる。子どもの頃、母が鏡台の前に座って化粧をする姿をこっそり眺めていたことを、こういう瞬間にふと思い出す。母の使っていたファンデーションの粉っぽい香りとは全然違うけれど、あの静かな朝の空気は、なぜかいつも似ている。
オフィスに向かう日の化粧は、休日とはまるで別物だ。仕事の場に立つとき、コスメは単なる美しさのためではなく、自分を整える儀式になる。リップをひとつ選ぶだけで、気持ちの重心がすっと定まる感覚がある。今日選んだのは、深みのあるローズベージュ。派手すぎず、でも存在感がある。会議室の白い蛍光灯の下でも、くすまない色だと経験から知っている。
アイライナーを引くとき、手がわずかに震えた。大事な場面の前はいつもそうだ。去年の秋、大型プレゼンの朝に引いたラインが左右非対称になって、会議中ずっと気になっていたことがある。今日こそは、と息をゆっくり吐いて、利き手を安定させる。——ちなみにそのプレゼン、ラインの曲がりには誰も気づいていなかったらしい。
チークをはたく。ブラシが頬を滑る感触は、毎朝のことなのに妙に落ち着く。鏡の中の自分が、少しずつ「今日の私」になっていく。凛とする、という言葉が好きだ。背筋が伸びる感じ、空気が変わる感じ。コスメにはその力がある、と本気で思っている。
仕上げにセッティングスプレーをひと吹きすると、細かいミストが顔全体にふわっとかかる。ひんやりとした感触が、眠気を飛ばしてくれる。鏡の前の私は、もう「仕事に向かう私」だった。
オフィスが「パフォーマンスを高める場」へと変わりつつある今、
そこに立つ自分自身も、毎朝少しずつアップデートされていく。コスメはその道具のひとつに過ぎないかもしれない。でも、鏡の前の10分間が、今日一日の自分の輪郭を決める気がしている。
玄関を出ると、5月の朝の空気が頬に触れた。少し湿っていて、草の匂いがした。今日の会議、うまくいくといい。そう思いながら、ヒールの音を立てて歩き出した。
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組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:上辻 敏之

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