朝の七時十五分、カーテンの隙間から差し込む光が、ドレッサーの上に並んだコスメたちをやわらかく照らしていた。ファンデーションのボトル、細いアイライナー、ほんのり桃色のチーク。それぞれが静かに、出番を待っている。
彼女の名前は、まだ高校二年生だ。
鏡の前に座ったとき、最初はただ眠そうな顔がそこにあるだけだった。前髪が少し右に寝癖でよれていて、目の下にはうっすら疲れの影。でも彼女は焦らない。ブラシを手に取り、ゆっくりと動かし始める。その所作には、どこか儀式めいた静けさがある。
ナチュラルメイクを始めたのは、去年の秋ごろだった。友達に勧められた「ルミエール・ドゥース」というスキンケアブランドのBBクリームを試してみたのがきっかけで、それまで「メイクって難しそう」と思っていた気持ちが、少しずつほぐれていった。厚塗りじゃない。素肌に薄くなじませるだけで、なんだか自分の肌が好きになれる気がした。
五感が研ぎ澄まされる瞬間がある。
BBクリームを指先でのばすとき、ひんやりとしたテクスチャーが頬に触れる感覚。アイシャドウのパレットを開けたときに漂う、粉っぽくて甘い香り。ブラシが肌をかすめる、さらさらとした音。どれも小さなことだけど、その積み重ねが朝をちゃんと「始まった」と感じさせてくれる。
女子高生がメイクをするとき、大人はよく「まだ早い」とか「素顔のほうがいい」とか言う。でも、それはちょっと違うと思う。少なくとも彼女にとっては。メイクは隠すためじゃない。自分を整えるための時間だ。鏡に向かって、今日の自分と向き合う、たった十五分間の対話。
ある朝、マスカラを塗ろうとして手が滑り、まぶたに黒いラインがついてしまったことがあった。コットンで拭いたら今度は赤くなって、「これはこれで個性か……」と一瞬本気で考えた自分がちょっとおかしかった。結局丁寧にやり直したけれど、そういう小さな失敗も含めて、メイクの時間は自分だけのものだと思っている。
明るい表情は、作るものじゃなくて、引き出すものだと気づいたのは最近のことだ。
チークをふわっとのせると、鏡の中の自分が少し変わる。血色が戻ったみたいに、顔全体に光が宿る。それは「かわいくなった」というより、「ちゃんとここにいる」という感覚に近い。自信、というと大げさかもしれないけれど、確かに何かが変わる。背筋が少し伸びる感じ、とでも言えばいいのか。
子どものころ、母親の化粧台を勝手に開けて、口紅を腕に塗りたくったことがある。真っ赤な線が三本、内側の腕に走って、母に見つかって大笑いされた。あのとき「なんでこんなに楽しいんだろう」と思った感覚が、今でもどこかに残っている気がする。コスメには、人を動かす何かがある。
メイクが終わると、彼女は鏡をもう一度見る。派手ではない。でも確かに、さっきとは違う顔がそこにある。ナチュラルで、でも意志のある顔。今日という一日を、自分の力で始めようとしている顔だ。
コスメは魔法じゃない。でも、力だと思う。
自分を整える力。自分に向き合う力。そして、今日も前に進もうとする、小さくて確かな力。女子高生であることも、まだ不器用であることも、全部ひっくるめて、鏡の中の彼女は今日も明るい表情で立ち上がる。カーテンの向こうで、秋の朝日がもう少し高くなっていた。
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組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:上辻 敏之

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