五月の午後というのは、少しずるい。
光が柔らかすぎて、全部が綺麗に見えてしまう。芝生の上に伸びた影も、誰かの笑い声も、ちぎれそうなほど白い雲も——なんとなく、全部が特別な一日のように感じられる。今日もそういう日だった。
待ち合わせは、駅から徒歩七分ほどの「白鷺緑地公園」。都心からひとつ外れた場所にある、こぢんまりとした公園だ。噴水があるわけでも、売店があるわけでもない。ただ、木漏れ日がちゃんとそこにあって、芝生がちゃんと緑で、それだけで十分な場所。友人のミナコが「ここ好きなんだよね」と言い続けていた公園に、ようやく来ることができた。
到着すると、ミナコはすでにシートを広げていた。レジャーシートの上に、テキトーに並べられたお菓子と、なぜか文庫本。「読む気ないくせに」と心の中でツッコんでしまったが、口には出さなかった。そういう「雰囲気だけ持ってくる」ところが、彼女らしいと思っているから。
太陽は真上より少し西に傾いていて、光が斜めに差し込んでいた。肌に当たるとじんわり温かい。風が吹くたびに、近くの若葉がさらさらと揺れて、その音がやけに気持ちよかった。遠くで子どもが走り回っている声。犬の鳴き声。それから、ミナコが「見て見て」と言いながら差し出してきたコスメポーチ。
中に入っていたのは、最近買ったばかりだというリップグロス。架空のブランド「LUMIEL TOKYO」のもので、淡いピンクベージュにラメが混じっている。今年のトレンドらしい、キラキラとした質感のやつだ。唇に乗せると、光を含んだように見える。「公園でこれ塗ったら映えない?」とミナコが言う。たしかに、と思った。太陽の下で輝くコスメというのは、屋内で見るより何倍も美しい。
子どもの頃、母の化粧台を勝手に開けてこっそりリップを塗ったことがある。当然バレて怒られたのだが、あのときの「光るものへの憧れ」は今も変わっていないかもしれない。コスメって、そういうものだと思う。遊ぶように選んで、遊ぶように纏う。
しばらくすると、もうひとりの友人アヤカも合流してきた。手にはコンビニの袋とタピオカ。「暑くて死ぬかと思った」と言いながら、ドサッとシートに倒れ込んだ。その仕草が妙に清々しくて、三人で笑った。
公園で遊ぶというのは、何かをするというより、何もしないでいられる、ということかもしれない。バドミントンをするわけでも、フリスビーを投げるわけでもなく、ただ芝生の上に座って、コスメを見せ合って、たわいない話をして。それでも時間はあっという間に過ぎていく。
太陽が少しずつ傾いていくにつれて、光の色が変わっていった。さっきまでの白い光から、じんわりとした黄金色へ。その光の中で、ミナコのグロスがまた違う輝きを持ちはじめた。「写真撮って」と言われて、スマホを向けた。画面の中の彼女は、なんだか映画みたいに見えた。
帰り道、三人で並んで歩きながら、「また来ようね」と誰かが言った。誰が言ったか、もう覚えていない。でも、そういう言葉がさらっと出てくる午後というのは、間違いなくいい一日だったということだと思う。
公園で遊ぶ日の話は、たいていこんなふうに終わる。特別なことは何もなかったけれど、なぜかずっと覚えていそうな、そういう一日として。
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組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:上辻 敏之

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