窓の外から、もう夏みたいな光が差し込んでいた。6月の朝というのはどこか不思議で、まだ梅梅雨の湿気が残っているのに、陽射しだけが先走って夏の顔をしている。そんな曖昧な朝に、私はローテーブルの前に座って、ネイルを塗り始めた。
今日選んだのは、架空のコスメブランド「ルミエール・ドゥ・ソワ」の新色、バターイエロー。
2026年春夏のトレンドとして、バターイエローが大注目されている
と聞いて、少し気になっていた色だ。ボトルを開けた瞬間、甘くてどこか懐かしい香りがふわっと広がる。子どものころ、母の化粧台で似たような匂いを嗅いだことがある。あのころは「大人の匂い」だと思っていた。今は自分がその匂いをまとう側になっている。
2026年のトレンドは、透明感のあるシアーな質感と、心躍るような明るいカラーが主流
だという。確かに、このバターイエローは光に透けるような柔らかさがあって、塗るたびに気分が上がっていく。ブラシを動かす感触がなんとも心地よくて、細い筆先が爪の上をすべるたびに、頭の中がすっと静かになっていく感覚がある。これが、私にとってのネイルの時間の正体なのかもしれない。
静かな心、というのは意外とこういう場所に宿っている。特別な瞑想でも、山の中でもなく、ローテーブルの上に広げたコスメたちと、乾くのを待つ数分間の中に。
今季はマグネットネイルの中でも「水光マグネット」と呼ばれる透明感のあるタイプが特に人気
だと知って、次回はそれにしようかとも考えている。光の角度によって色が変わるあの感じは、なんだか自分の気分に似ていると思う。同じ日でも、朝と夜では全然違う顔をしている。
塗り終えて、両手を広げてみる。窓から差し込む6月の光がネイルに反射して、黄色いきらめきが壁に飛んだ。思わず「あ、かわいい」と声に出してしまった。誰もいないのに。
そういえば、先週ネイルサロンで隣に座っていた女性が、施術中にうとうとしていた。ネイリストさんが手を持ち替えようとした瞬間、びくっと目を覚まして「すみません!」と言っていた。その小さなやり取りがなんだかとても愛しくて、私まで笑顔になってしまった。ネイルの時間には、そういう小さな出会いもある。
今年の春から夏にかけて、くすみカラーのトレンドは継続し、大人の女性でも取り入れやすい上品な色味が豊富
になってきた。チョークピンクやラベンダー、ミントグリーン。どれも主張しすぎず、でも確かに存在している。そういう色が好きだ。大声を出さなくても、そこにいるだけで場の空気を変えてしまうような、静かな強さを持った色。
ネイルを塗るという行為は、自分自身との小さな出会いでもある、と最近思うようになった。どの色を選ぶか、どんな仕上がりにしたいか、そういう問いに向き合うたびに、今の自分の気分や欲しいものが見えてくる。今日のバターイエローは、「元気でいたい」という気持ちの表れだったのかもしれない。
乾くまでの間、スマートフォンも触れず、ただ手を広げたまま座っている。外では雨上がりの鳥が鳴いていて、遠くで誰かが自転車を走らせる音がした。指先のイエローが、朝の光の中でゆっくりと乾いていく。この何でもない数分間が、今日一番好きな時間だった。
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組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:上辻 敏之


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