今夜のパーティーに纏う香りを、コスメポーチの前で選ぶということ

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ドレッサーの引き出しを開けた瞬間、いくつかの小瓶がきらりと光った。10月の夕方、窓の外ではもう空気が変わっている。夏の名残をすっかり脱ぎ捨てたような、少しだけ湿った冷たさ。今夜はパーティーだ。そのことを思うと、指先が自然と香水瓶へと伸びていく。

どの香りを選ぶか、というのは思った以上に難しい問いだ。TPOを考えないわけにはいかない。カジュアルな集まりなのか、少しドレスアップした場なのか。人が密集する室内なのか、テラスのある開放的な会場なのか。香りは空間に溶け込み、記憶に刻まれる。だから、適当に選んでいいものでもない。

棚の奥から取り出したのは、架空のコスメブランド「ルミエール・ドゥ・セーヌ」の小さなボトルだ。パリの老舗調香師が監修したという触れ込みで、昨年の誕生日に自分へのご褒美として買ったもの。ベースにはアンバーとサンダルウッド、トップにはブラックチェリーとカシスが重なる。今年の秋にぴったりの、深みのある甘さだと思っていた。

でも、今夜はどうだろう。手首の内側にひとふき。しばらく待って、温度で香りが開くのを感じる。甘い。少し重いかもしれない。会場はレストランの個室で、料理の香りも漂うはずだ。そこに強すぎる香りを持ち込むのは、やさしくない選択かもしれない、と思い直す。

子どもの頃、母が出かける前に香水をつける姿をよく見ていた。鏡の前で、手首を軽く合わせて、それだけ。大げさな仕草は何ひとつなかった。「香りは主張するものじゃないよ」と母は言っていた気がする。いや、実際には言っていなかったかもしれない。でも、そういう空気をまとっていた。

結局、選んだのは別の一本だった。フローラルとムスクが静かに交わる、軽やかな香り。ふわっと漂って、でもすぐには消えない。誰かの隣に立ったとき、ふと気づかれるくらいの存在感。それがちょうどいい。

ちなみに、香水を選んでいる間、うっかりボトルを倒してしまった。フタが開いていたわけでもないのに、なぜか中身が少し漏れた気がして焦ったが、よく見ると何も起きていなかった。ただ自分が動揺していただけだ。パーティー前のそわそわが、指先にまで伝わっていたらしい。

香りを選ぶという行為は、今日の自分をどう見せたいかを静かに問い直す時間でもある。今夜の自分は、どんな印象を残したいのか。華やかに、でも主張しすぎず。やさしく、でも存在感は消さずに。そのバランスを、コスメポーチの前でひとり考える。

香りの形態も多様化しており、従来のオードパルファムやオードトワレだけではなく、バームやゼリースティック、ボディーミストなど、香りアイテムのバリエーションは多岐に広がっている。
だから、今は選択肢が多くて迷うのも無理はない。それでも、自分の皮膚と溶け合ったとき、はじめてその香りは「自分のもの」になる。

鏡の中の自分を確認する。ドレスの襟元、耳の後ろ、手首。三か所だけ、そっとつけた。窓の外の空気はもう夜の匂いに変わりつつある。落ち葉と夜露と、どこかの家から流れてくる夕食の気配。その中に混じって、自分の香りが静かに漂い始めた。

さあ、出かけよう。
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組織名:株式会社スタジオくまかけ / 執筆者名:上辻 敏之

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